本研究では、カドミウム(Cd)の投与がスプライシング変異体の生成やスプライシング関連蛋白をコードする遺伝子の発現に及ぼす影響を調べ、スプライシング制御機序への関連性を検討した。また、発生や発がんにおいて重要な役割を持っているhomeobox遺伝子の発現におけるCdの影響を調査した。 1.SMA typeI患者由来の線維芽細胞にCdを投与し、SMN膿遺伝子のexon7が排除されたmRNA(Δ7-SMN)の発現量の変動をRT-PCRで検討した。30-100μMのCd投与によりΔ7-SMNは2.5倍まで増加し、CdがSMN遺伝子のスプライシング反応を撹乱する可能性が推測された。また、選択的スプライシングを促進するスプライソソーム蛋白であるZNF265の遺伝子発現が10μMのCd暴露により著しく増加したことから、ZNF265の発現増加がΔ7-SMNの発現増加に影響している可能性が示唆された。 2.乳がん細胞由来のMCF-7細胞にCdを投与し、BRCA1、BRCA2遺伝子の発現を検討した結果、スプライシング変異体の誘導は認められなかった。しかし、両遺伝子の発現が50μMのCd暴露により顕著に減少する結果が示され、Cdの発がん機序に係わる可能性が推測された。 3.COS-7細胞にCdを投与し、HOX遺伝子の発現量の変動をRT-PCRで調査した。HOXB8のmRNAは10μMのCd投与により5.4倍上昇し、HOXC9とC10は0.1-0.3倍に減少した。siRNAを用いたHOXB8ノックダウン実験では、HOXC9とC10のmRNA発現がそれぞれ6.6倍と1.9倍増加し、CdによるHOXB8の発現増加がHOXC9とC10の発現を減少させた可能性が強く示唆された。 4.COS-7細胞においてHOXB8遺伝子発現に及ぼすretinoic acid(RA)とCdの作用を調べた。HOXB8遺伝子発現はCdによって2.9倍、RAによって1.7倍増加したが、CdとRAの同時投与により5.4倍まで増加した。この結果から、両物質はHOXB8の発現を相乗的に促進し、各々は毒性を現す濃度以下の暴露であっても、同時暴露による相乗作用によっては、奇形発生などの被害を及ぼす可能性があることを示唆した。
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