本年度は、マウス(系統:C57BL6)の大脳皮質および海馬切片標本を用いて、刺激に対する細胞内Ca^<2+>濃度変化の定量的計測と薬物の影響を検討した。 1)作製した脳切片について、Ca^<2+>指示薬fura-2を用いた二波長励起法での見かけの細胞内Ca^<2+>濃度測定したところ、静止状態では70nmol/l前後であった。Fura-2では高速画像測定が困難であることから、Ca^<2+>指示薬rhod-2が65nmol/lと100nmol/lのCa^<2+>溶液中で示す蛍光強度を基準として、rhod-2染色脳切片の電気刺激(75μA-100μs)によるCa^<2+>濃度変化を見積もったところ、刺激電極尖端近傍のV層及びその直上のII-III層では20-30nmol/l、I層、IV層では10nmol/l前後に相当する見かけの細胞内Ca^<2+>上昇応答(以下、Ca^<2+>応答)が観察された。このCa^<2+>応答は、興奮がおさまった後100ms以上かけて徐々に減少した。 2)大脳皮質では、単発刺激に対するCa^<2+>応答はω-アガトキシンやMK-801によって強く抑制されたが、ω-コノトキシン(N型カルシウムチャネルブロッカー)、CNQXによる有意な抑制は見られなかったことから、Ca^<2+>応答ではP/Q型カルシウムチャネルやNMDA型グルタミン酸受容体チャネルからのCa^<2+>流入が重要と考えられた。 3)大脳皮質の興奮の広がりを抑制するムシモール、チアミラールは単発刺激に対するCa^<2+>応答を抑えなかった。単発刺激によるCa^<2+>流入は、GABA_A受容体が賦活されても影響を受けないことが示唆された。 4)大脳皮質で興奮の広がりを抑制するチアミラールを同じ濃度で海馬に作用させても、刺激による興奮の広がりやCa^<2+>応答は抑えられなかった。このことから、大脳皮質と海馬ではGABA_A受容体のバルビタールに対する感受性に差異のあることが示唆された。
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