本年度は、理論の発展法という観点から研究を行った。L.ローダンの科学哲学をもとにして、社会学の理論を発展させる方法を検討した。ローダンによれば、理論の発展とは、研究伝統が抱える概念的問題と経験的問題を効率よく解決していくことである。このような解決は、調査によってなされるわけではなく、思弁によるものである。しかし、より問題の少ない理論は、データがどのような分布をするのか、どのような事柄を調査すべきなのか、について多くの示唆を与えてくれる。また、調査結果は、経験的問題がそもそも存在するのかどうかについて、多くの事柄を教えてくれる。このように考えると、社会調査と社会学理論は相互不可分である。それゆえ、社会調査と理論の研究をまったく別の研究分野と捉え、相互不干渉を決め込むような研究方略は、社会学の発展にとって有害であることが示唆される。 また、社会学的想像力論の観点から社会学の著作をとらえると、社会学も一種の物語であると見ることができる。問題は、どのように物語るのが適切なのか、という点にある。その準備として、比較的評価の高い社会学の著作を物語としてとらえ、どのような構造の物語なのか、その特徴を検討した。物語の分類法は無数に考えられるが、物語の筋を引っ張る主人公によって社会学的物語を分類することができる。第一のタイプの主人公は、研究対象を主人公とするもの。聞き取りや生活誌の研究が典型的である。第二のタイプの主人公は、研究者自身を主人公とうするものである。研究者が既存の巨大な敵(支配的な理論)を倒す物語として著作をものする場合が典型的であろう。第三のタイプの主人公は、概念が主人公となるものである。これは原始的な概念から出発して複雑な理論を構築していったり、わかりやすい典型的な概念から出発して様々なケースを包含するより一般的な概念へと議論を拡張していくような場合である。
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