調査支援型社会学理論は、調査の企画・設計の際に主に役立つと考えられるが、データの分析の際にも役立ちうる。2005年の日本、韓国、台湾の調査データを用いて、二次分析行った。この際に援用したのが、サスキア・サッセンの世界都市論である。世界都市論は、世界都市では高度な専門サービスが盛んになり製造業が衰退するため、中間層が縮小し一部の高度専門職と大多数の下層サービス職に二極分化することを主張する。このような議論はいわば社会イメージを作り上げることに貢献する。サッセンはもちろん現地調査や文献調査を通してみずからの議論を鍛え上げていったのであるが、サッセンが作り上げた世界都市イメージは単なるデータの集積には還元できない全体像を作り上げている。N.グッドマンのいう「世界製作」こそ、サッセンの主要な業績であるといえる。調査データそのものは、必ずしもこのような社会イメージないしは世界観を供給してくれないため、調査データに基づく研究は、データ以外のどこかから世界観を調達する必要がある。それゆえリアルで訴求力のある社会像を供給してくれる社会学理論は、社会調査にとって有用である。われわれはサッセンの作り上げたイメージを利用しつつ、それに独自のデータ分析から得られた知見を付け加えることで、サッセンの作り上げたイメージをさらに包括的なものにすることを試みた。 すなわち、サッセンの議論はグローバル化時代の都市に焦点を当てていたのに対して、われわれはその照準を地方に広げたのである。このように、調査支援型社会学理論の役割の一つは、社会イメージをつくりあげることで、データを解釈するための枠組みを構成することにある。そのいっぽうで、調査データは社会イメージの変容を帰結する場合もある。
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