研究課題
最終年度にあたる平成20年度は、前年度までの資料調査・読解作業を踏まえつつ、本研究課題のまとめとなるべき作業を進めた。1. 前年度までの資料収集・調査・読解作業から、和辻哲郎の倫理学理論の重要な特質として、それが解釈学的であるのみならず、存在論的な議論でもあるという点が明らかとなってきた。その点においてマルティン・ハイデガーからの影響は決定的であり、本年度は両者の思想の比較哲学的な研究を中心に行なった。そこで注目したのは、倫理学にとっての根本的な問題であるとも言える「規範性」の問題である。そして両者は「規範(価値)の客観性」という今なお議論され続けている古典的問題に対して、「了解」という解釈学的な概念でもって、従来の「事実と価値の二元論」に陥らないような解答を示唆していたことが解明された。2. ドイツで刊行されているハイデガーに関する研究論文集『ハイデガー年報(Heidegger-Jahrbuch)』(カール・アルバー社刊行)の第7巻に、ドイツ語の論文を執筆した(すでに原稿は編者に提出済みだが、前巻までの刊行スケジュールの都合により、実際の刊行は当初の予定から1年遅れ2010年となる予定)。この第7巻は「ハイデガーと東アジア思想」と題され編集されるもので、筆者は「規範全体性の了解」という概念を軸に据えて、ハイデガーの思想が和辻の倫理学理論にどのような影響を与え、またそこから和辻がいかなる独自な理論的展開を示し得ていたかについて論じた。その意味でこの論文は、本研究課題の成果をまとめた論文であり、また和辻の思想の最も基礎的な部分を海外の読者に紹介するという意義も担うものになると言えよう。
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Heidegger-Jahrbuch VII "Heidegger und das ostasiatische Denken", Karl Alber(『ハイデガー年報』第7巻「ハイデガーと東アジア思想」カール・アルバー社)【掲載確定し2010年に刊行予定】 7(未定)