本研究は、インカ土器(インカ帝国に特有の器形・文様をもつ土器)を、日本考古学で培われてきた詳細な観察と型式学的検討というオーソドクスな手法によって研究し、インカ土器の生産体制の復元と編年構築を目指すものである。このため、実際に現地において資料を観察・資料化することがまず基盤として重要となる。 そこで8月には、南米エクアドル共和国においてインカ帝国の行政センターの発掘調査に参加するとともに、この機会を利用してカトリカ大学ヒホン・イ・カアマーニョ博物館所蔵資料の所蔵確認を行った。12月には、ペルー共和国へ渡航し、リマ市において国立考古学人類学歴史学博物館、ラファエル・ラルコ・エレーラ博物館、クスコ市において先コロンブス期芸術博物館、コリカンチャ博物館などを訪れ、所蔵資料を実見した。さらに3月には、ふたたびエクアドル共和国に赴き、クエンカ市中央銀行博物館、先住民博物館の資料を確認するとともに、サン・フェルナンド市に滞在しつつ南部高地のインカ遺跡出土遺物の詳細な観察・資料化を行った。また、各機会を利用して関連文献の収集にも努めた。総じて本年度は、調査許可申請の問題もあり、今後の本格的な研究活動に向けた準備期間となったと言えよう。ただし、本年度の調査・研究によって、インカ土器、とくにアリバロと称される壺形土器と台付き鍋の製作技術につい、ては、先行研究との異同を含めて多くの知見を得ることができた。これについては論文として公表すべく準備中である。 一方、とくに収集した文献を用いた研究史を中心とした研究では、今後の研究指針を定めるにあったって重要な点をいくつか明らかにすることができた。この成果は、下記の通り2本の学術論文という形で公表した。
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