今年度は、主に2002年から2004年にかけてウズベキスタン共和国フェルガナ州でおこなったフィールドワークのデータを今回のテーマに沿ってまとめなおし、問題点を洗い出すことと、文献調査と夏の現地調査によって今回のテーマに沿った分析軸を考察する作業を行った。その結果、以下のことが明らかになった。 調査地における宗教(イスラーム)的現象を限られた数の原理や宗教的コンプレックスとして整理してみると、学習によって得られる知識(ilm)を尊ぶ方向性のムッラ・コンプレックス(Mulla Complex)と個人の一種のカリスマ的な素質を尊ぶアウリヨ・コンプレックス(Auliyo Complex)の2種に大別できる。ムッラ・コンプレックスの指導者は男女別に分かれている。彼らへの尊敬は、あくまでもまずその知識へ向けられたものであって、当人の人格や行動そのものが人々を惹きつけているとは限らない。 これに対してアウリヨ・コンプレックスの核となる人物は一種のカリスマ性をもち、人格や行動も多くの人をひきつけるものである。具体的には「この世の」カリスマたるイシャーン(eshon)、ホジャ(xo`ja)とトゥラ(to`ra)、パフシ(baxshi)とキンナチ(kinnachi)等がいる。また現在R市に実在する彼らに対して、伝説的あるいは過去の存在人物であるマザールの主(mozor boshi)やピール(pir)は「別世界の」カリスマといえる。 これらの位相は、あくまで研究者の視点から分けたものであり、現実には各位相が互いに干渉、融合しあう場合もある。だが、このモデルによってこの地域固有の信仰実践の概要と特徴を明らかにしていくことができる。
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