ユーラシア地域における屈指の原油・天然ガスパイプライン輸送国であること、また2006年初にロシアとの間で天然ガス紛争が生じたことから、ウクライナのパイプライン政策を中心に研究を行った。ウクライナの原油パイプライン政策については「ウクライナとロシア原油-供給源・ルート多元化をめぐる戦い-」、天然ガスパイプラインについては「ロシア・ウクライナ天然ガス戦争とその余波」が論文として刊行された。また、ロシア東欧学会(2006年10月18日、青山学院大学青山キャンパス)において共通議題「パイプラインの影響」の討論者として、上記の研究成果で得られた知見を元に報告・討論を行った。原油と天然ガスとを分けた理由は、パイプライン敷設費の違い(天然ガスの方が高い)、および消費構造(原油消費は製油所のみであるのに対し、天然ガスの場合はより広範囲)の違いによるものである。上記の研究成果内で、、パイプライン政策は単なる政府間のパワーゲームというよりは、原油・天然ガス企業の経済合理性に基づく行動がより強く影響を与えていることを明らかにした。すなわち、原油・天然ガス企業(ロシア企業)がパイプライン通過国(ウクライナ)の市場に進出することによって輸入供給先、輸入量をコントロールし、その結果して当該国のパイプライン政策に強い影響を与えているのである。また、反ロシア感情が強いウクライナやバルト諸国では、ロシア企業の進出の背景にはロシア政府によるエネルギー外交があるし、安全保障上の脅威と捉えている。しかし他方でロシアからの投資やエネルギー供給がこの地域の経済成長の一因ともなっており、安全保障と経済がトレードオフ関係にあることも示した。これらの構図を各国ごとに検討することで、第二年次以降に行う比較がより明確になるものと考えられる。
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