ウクライナの原油パイプライン問題については、スラブ研究センターの国際シンポジウムにおいてゴールドマン、セーガー、バルマセーダといった国際レベルの研究者と並んで英文報告Does Pipeline Lead Ukraine to Europe?-The Fall of "Energy-transit State"(フルペーパーを提出)を行なった。本報告では、パイプライン問題を安全保障、すなわちロシア依存を減らしヨーロッパ統合の手段として考えるウクライナ国家の政策が、経済上の利益を重視する国内企業およびロシア原油企業によって無実化されたことを明らかにした。 また、天然ガスについては、「ウクライナの天然ガス事情」内で現地で入手した統計資料を駆使して、2006年初にロシアとの間で天然ガス紛争の再検証を行った。統計から、ロシア企業のシェア拡大および権益確保が確認された。一般に言われる「ロシアによるエネルギーを利用した外交」よりは、国家が自国資本の収益を後押しする重商主義の側面が強いことが確認された。 いずれの研究成果においても、国家の安全保障を最重視し国家のみをアクターとするリアリスト的な見方ではなく、相互依存的な見方、すなわち経済利益およびアクターとして個々の企業が重要であること、またパイプラインは生産国の企業をアクターたらしめる促進要因であることが明らかにされた。
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