2008年3月にハーバード大学ウクライナ研究所主催の天然ガスシンポジウムに参加し、ウクライナ人ジャーナリストやエネルギー問題専門家達との意見交換を行なった。さらに引き続き現地滞在し、同付属図書館が抱える傍題な図書資料の蒐集を行った。その結果、天然ガス戦争には、地政学的な要因(エネルギー外交)と経済的な要因(重商主義)に加え、再輸出による利益を両国政府の上層部が分け合っているという「政治家個人の利害」が、重要な動機となっていることが判明した。これは当初の研究計画に欠けていた視点であり、この視点を盛り込んだ「ウクライナ・ロシア天然ガス関係の新展開」をロシアNIS調査月報に発表した。また、田畑伸一郎編著「石油・ガスとロシア経済」内「ウクライナとロシア」章を担当し、本研究の成果を盛り込み、ロシア政府のウクライナに対する関心は「地政学的な利益」というよりは自国エネルギー資本のウクライナにおける収益確保の要因が強く、逆にウクライナ政府はロシア資本進出を「自国の安全保障上の脅威」と見なす傾向にあることを指摘した。 なお、予定していたコーカサス諸国出張は2008年8月に起きた「南オセチア紛争」により実現できなかった。2009年に再び「天然ガス戦争」が生じたこともあり、現地調査先をウクライナおよびロシアに変更し、現地調査を行った。
|