本年度は、同質的な産業構造が多い経済を仮定した上で一般化した一国経済モデルを用いて、リニエンシープログラムの効果的設計・運用について理論的な分析を行った。幾つかの仮定の下、最初の協力者にのみ大幅な課徴金の減免を認めるべきという結果をかなり広い範囲のパラメーターのもと、解析的に得ることに成功した。この結果は、リニエンシープログラムの基本設計に関して、既存研究に一定の経済学的知見を追加するものと考えられる。 また、一国経済における(企業数は異なるものの構造的には同質的な)産業の分布の仕方によっては、可能な限り多くの産業でカルテルを撲滅するような制度設計が最適とはならない場合があることを示す数値例を作成することにも成功した。この数値例による結果は、リニエンシープログラムの再設計時に一定の注意を喚起する意味で、一定の役割を持つと私は考えている。 これらの研究成果をまとめた学術論文をJournal of Economics誌に投稿し、現在、改訂要求を受けている。幾つかの有益な指摘も得られたので、今後はこれらの改訂要求を基に更に論文の完成度を高め、Journal of Economics誌への掲載を目指していく予定である。 なお、解析的分析では更なる一般化は困難だという感触も得たので、今後は数値計算による分析を用いて更に研究を進めていくこと、審決などを基に現実的な拡張に特化した一般化の可能性を検討している。
|