研究概要 |
近年、地方自治体の財政改革の一環として,企業会計方式の導入が数々の自治体において検討および実施されてきていることは周知のとおりである。国の内外を問わず、地方自治体が開示する財務情報の利用者として、市民や国民が想定されており、財務報告の目的として公的説明責任(につながる受託責任の明確化)が掲げられている。自治体が公的説明責任をはたすことによって、行政担当者に対する規律づけが期待されているのである。ところが、アメリカのように市民や国民が納税者としての立場を明確に意識して行政サービスの善し悪しに常に高い関心を寄せているような状況がないわが国においては、そのような規律づけが期待通りになされるとは考えにくいといわざるをえない。すなわち、行政担当者によるモラル・ハザードをコントロールする手段として、とりわけモニタリングの手段として自治体の財務報告が想定されているのであるが、わが国には納税者として声を上げるということが通常おこなわれていないために、財務報告がモニタリングのために用いられないという問題点をはらんでいるのである。このような納税者の意識を急激に変革することは容易ではないため、財務報告を用いたインセンティブ契約をおこないモラル・ハザードをコントロールすることを模索するほうがよいと考えられる。たとえば財務報告を用いたインセンティブ契約の例として、行政サービスの成果に連動した報酬制度・昇進制度を設計することがあげられる。
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