研究代表者のこれまでの研究で、他者一般に対する信頼である一般的信頼の生成プロセスに関する2つの異なる理論が検討されてきた。近畿地方において行われた調査研究では、中間集団におけるボランタリーな活動が一般的信頼を高めるというロバート・パットナムの主張と一貫する結果が得られていた。この近畿調査において、中間集団へのコミットメントと同時に一般的信頼を規定していたのは、行政、司法等の制度への信頼であった。平成18年度には、一般的信頼と制度への信頼の相互規定関係をより明確にするために、全国規模の調査を行った。実査が完了したのは平成19年2月であり、詳細なデータ分析は平成19年度に行う予定であるが、現在までのところ、制度への信頼のパターンは、居住地の都市規模、職業等回答者の社会的背景により異なること、制度への信頼が、日常生活における安心を提供し、それが他者に対する信頼を高めることが示唆されている。 また、平成18年度には、集団の問題解決場面における信頼の効果について、探索的な実験を行った。集団合議において、メンバー問で共有されていない情報は、合議を経ても共有化が進みにくいということを指摘した「隠れたプロフィール」場面において、メンバーの対人的信頼感の高さが非共有情報の共有化を促進する要因となるかについて、実験による検討を試みた。その結果、高信頼群において低信頼群よりも非共有情報の共有化が進みやすいという結果は得られなかったが、実験後質問紙の分析により、本実験の実験課題には克服すべき問題点が見つかったため、実験デザインの改良の後、再実験が必要である。
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