本研究では、認知症患者と主家族介護者を対象とした心理教育における介入方法の検討を行ってきた。その結果にもとづき本年度は、対象の属性を統制したグループ介入を行うこととした。介入の手法には、回想法およびコラージュ療法を用いた。これまでコラージュ継続制作を用いた実証的な効果研究はみあたらない。そこで今回、軽度認知症患者とその配偶介護者4組を対象に回想コラージュプログラムを実施し、効果検討にむけた基礎的知見を見出すことを目的とした。 患者と介護者との関係性ヘアプローチするため、夫婦関係に関連したテーマを設定した。毎回のプログラムは、隔週1回1時間半、全7回(約4ヶ月間)連続して行った。(2)〜(6)の全5回でグループによる回想コラージュ療法を行った。効果評定には、バウム・テスト、気分、開放性、QOL、介護エフィカシーの尺度を用いた。 結果、バウムにおける成熟度の上昇とエネルギー感の低下、また開放性およびQOLの向上がみとめられた。一時的な気分の変化としては、おびえた気分や生き生きした気分の向上がみられた。さらに介護者では、介護エフィカシーの向上が示された。 成熟度は、現実への吟味能力や人格の繊細さを示す指標である。回想コラージュ療法では、想起された出来事に対する共感的相互作用を通した自己洞察が目的となる。介入により自己の明確化や創作意欲の向上とともに、情動的・行動的側面が改善され、コラージュを媒介とした称賛等の良好な人間関係が築かれた結果・コミュニケーション能力が向上したと考えられる。一方エネルギー感の低下は、知的機能低下に伴う防衛の現れであり、自我の不安定さを露呈した可能性が考えられる。 今後対象者の数を増やし、回想コラージュ療法の効果を認知症患者への心理療法として確立していく必要がある。また成熟度や開放性といった、これまでの指標ではみえない人格上の効果指標についても更なる検討が必要である。
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