研究概要 |
平成18年度は、ニュー・ロンドン・グループ(以下、NLG)の研究動向に着目し、それがヴィゴツキーの再評価に伴って展開される社会文化的アプローチからみたリテラシー研究をいかに摂取しているのかについて考察した。その結果、以下の点が明らかになった。 1.NLGは「状況づけられた実践」、「明示的な教授」、「批判的な構成」、「変革された実践」という四つの視点が環をなすリテラシー教育を構想している。 2.その理論化の際、社会文化的アプローチによるリテラシー研究の動向を批判的に摂取している。すなわち、学習者が社会的、文化的な相互作用を伴って学習者の共同体へと「参入」する「状況づけられた実践」の中でリテラシーが獲得されることに着目しながらも、二つの「批判」概念を提起し、学習者によって獲得される「ディスコース」を学習者が対象化、相対化していく契機を重要視している。(本研究ではNLGのメンバーであるジー(Gee, J.P.)の「デイスコース」概念に依拠した。) 3.批判的リテラシーの形成にかかわって更に考察を深めるため、NLGのメンバーであるキャズデン(Cazden, C.B.)の論考に着目した。キャズデンは、リテラシー教育の系譜をヴィゴツキー理論の受容の仕方との関連で三つに整理した上で、「文化の政治学」をも視野に入れたリテラシー教育を構想するため、ヴィゴツキーの「内言」論に着目し、「内言」を「創造力の源泉」のみならず「批評の源泉」として拡張的に解釈していくことを提起している。 4.学習者の共同体が共有する「ディスコース」は学習者にリニアに獲得されるのではなく、学習者め声や経験の側からの葛藤や軋礫を伴う。「ディスコース」を内化しようとする学習者の側に現れる葛藤や困惑をも含んだ<声>に「ディスコース」を批判的に捉え直す一つの契機がある。リテラシー教育では、そうした<声>をもつ他者と応答関係を築き、「ディスコース」を問い・確かめ直していく実践をつくり出すことが一つの課題となる。
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