温度、湿度、照度、を調整した人工気候室内において、大型スクリーンを用いて自然環境(森林浴)ならびに人工環境(都市)の視覚・聴覚刺激(音声付き動画、静止画)を提示し、被験者の指先における血圧ならびに脈拍数、および左右前頭部における脳血液量を測定した。 1.収縮期血圧においては、森林浴の動画によって刺激提示後に一過性に有意に上昇したものの、その後は有意に低下した。刺激自体が生体に与える負荷が小さいため低く安定したものと思われる。また、脈拍数も有意な低下を示した。これらの結果から、森林浴の動画によって交感神経活動の昂進が抑制された鎮静的な状態になったことが分かった。森林浴の静止画では、変化は小さいものの、森林浴の動画と同様の傾向が見られた。都市の動画では、収縮期血圧は刺激直後から常に大きく変化し、有意な上昇を示した。刺激が生体に与える負荷が大きく、交感神経活動の昂進したストレス状態になっていることを示している。都市の静止画においても、同様の傾向が認められた。 2.高次の脳活動を反映しているものと考えられる左右前頭前野の脳活動においては、いずれの刺激に対しても総ヘモグロビンと酸化型ヘモグロビンの有意な低下が見られた。森林浴動画では、刺激呈示終了時までは安静時の値に戻る傾向を示したのに対し、都市動画では、常に有意な低下を示しており、還元型ヘモグロビンも有意に低下した。この結果は、都市動画という強いストレッサーに対して生体が"逃走"する形で対応したことを示しているのかもしれない。 以上の結果から、森林浴由来の視覚・聴覚刺激が生体を鎮静化させること、ならびに人工環境の視覚・聴覚刺激が生体をストレス状態にすることが、自律神経活動と中枢神経活動の指標を用いることで明らかになった。
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