森林浴由来の刺激が生体に及ぼす影響を、刺激の複合効果ならびに生体の全身的協関の視点から明らかにすることを目的として、森林および都市の動画ならびに音声を単独もしくは複合して提示(動画のみ、音声のみ、動画+音声)した時の生理応答(血圧、前頭部における脳血液量、唾液中アミラーゼ活性)の測定ならびに主観評価を行った。その結果、唾液中アミラーゼ活性は、主観評価において快適と評価された森林の3刺激(動画のみ、音声のみ、動画+音声)の後に低下した一方、不快と評価された都市の3刺激の後では上昇した。森林においては、動画のみで平均血圧が有意に低下し、森林の音声のみでは、左前頭部における総ヘモグロビン量が有意に低下した。森林の動画+音声では、平均血圧は低下する傾向を示し、総ヘモグロビン量は有意な低下を示した。都市においては、動画のみで平均血圧が有意に低下し、都市の音声のみでは総ヘモグロビン量が有意に低下した。都市の動画+音声では、平均血圧は変化せず、脳血液量は低下する傾向にあった。 以上の結果から、1)森林の視覚聴覚刺激は都市に比べ、生体を交感神経活動の昂進が抑制され中枢神経が沈静化したリラックス状態にする、2)森林ならびに都市の視覚刺激による影響は血圧に、聴覚刺激による影響は脳血液量に現れる傾向にある、3)快適と評価された森林の視覚と聴覚の刺激を複合して与えた場合、血圧ならびに脳血液量が低下し、各刺激を単独で与えた時の反応を複合したような生理応答を示す、4)不快と評価された都市の視覚と聴覚の刺激を複合して与えた場合、脳血液量の変化は聴覚刺激を単独で与えた時と同様に有意な低下を示すが、血圧は視覚刺激を単独で与えた時の変化とは異なった変化を示すことが明らかになった。快適な刺激を複合して与えた場合、生体の各器官は協関してより快適な状態を増幅させようとする一方、不快な刺激の場合、複合して与えることによってより多くの情報を得た各器官が協関して働くことによりストレス状態を緩和することが明らかになった。
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