研究課題/領域番号 |
18H00697
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長縄 宣博 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 教授 (30451389)
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研究分担者 |
佐原 哲也 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (70254125)
山根 聡 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (80283836)
草野 大希 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90455999)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 20世紀 / 暴力 / 民主主義 / 帝国 / イスラーム / ナショナリズム / 社会主義 / アナーキズム |
研究実績の概要 |
本年度は、戦間期に重点を置きつつ冷戦期を展望することを共通の課題とし、各人が資料調査と成果発表を展開した。長縄は、ロシア史研究会の年次集会で二つの共通論題を組織した。一つは、近年の「グローバル冷戦史」の研究動向を踏まえて1950年代に焦点を当て、第二世界の東と西(中国、北朝鮮、東独、ハンガリー)が相互に絡み合う状態を議論した。もう一つは、19世紀後半から20世紀前半にロシア帝国が解体に向かい、ソ連邦が成立する中で、ロシアとポーランドの境界地域で生じた暴力とそれをめぐる政治を扱った。個人の研究としては、内戦期中央アジアにおける赤軍タタール人部隊に関して論文を執筆し、国際研究集会で報告した。なお、帝国主義時代の戦争がロシア国内のムスリム公共圏に与えた衝撃を論じた論文は、ロシア帝国研究で国際的に定評のある雑誌に掲載され、同誌に2020年度に掲載された全論文中で最優秀に選ばれた。佐原は、20世紀初頭のマケドニアのアナーキストなど、20世紀のバルカン諸国の極右政党の思想交流について文献・資料調査を進めた。また、シリアなどからバルカン半島を経てヨーロッパに流れる難民とそれを取り巻く現地社会の動態という近年取り組んでいた研究の成果を論文にまとめた。山根は、南アジアのイスラーム復興思想家マウドゥーディーの思想が冷戦期にペルシア語圏やアラビア語圏に拡散する過程について研究を続けると同時に、インド・パキスタンの分離に帰結するガーンディーのヒンドゥー的非暴力論とジンナーの宗派論との関係を読み直す作業に着手した。草野は、冷戦終結後のパクス・アメリカーナ時代における暴力と民主主義の関係に関する研究を、文献資料の収集と分析ならびに学会発表を通して進めた。そして、シリアを事例に、民主主義や人権を介入によって援護するアメリカのリベラル介入が、強権支配・暴力・殺戮に繋がったことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、予定していた海外調査や国際学会の参加ができず、大学の環境が一変したことに伴い、研究会を組織するのも困難だった。したがって、相互に連絡を取り合いながらも各自がそれぞれのペースで研究課題に取り組んだ。本研究は、1)帝国秩序への抵抗(1870年代から1920年代初頭)、2)反帝国主義の時代の国民形成(戦間期から冷戦期へ)、3)拡散する戦闘的イスラーム主義者(1979年以降)という三つの軸を設定しているが、現在は各人が軸を架橋する形で「長い20世紀」の連続と断絶を考察できるように努めている。長縄は1)と2)を架橋する形で、初期ソ連の中東外交が旧ロシア帝国のムスリム地域(とりわけ中央アジア)の内戦で育まれた活動家や言説に下支えされていた側面について研究を続けている。とくに、令和3年度に繰り越した資金でプリンストン高等研究所に滞在できたことで、ロシア・イラン関係について文献調査・考察ができたことは有益だった。山根は2)と3)の軸を架橋する形で、マウドゥーディーの著作の翻訳と伝播について資料収集と分析を進めると同時に、暴力をめぐる南アジアでの言説について特にヒンドゥーとムスリムの対立や、アフガニスタンでの対ソ連戦争時の論説を検討している。佐原は2)と3)の軸を架橋する形で、トルコのムスリム・アナーキスト、とりわけイラン革命の思想的背景を引き継ぎながら現政権を批判するグループのネットワークと言説を分析している。草野は1)と3)を架橋する形で、アメリカが「海洋帝国」(西半球帝国)となった時代(19世紀末~20世紀初頭)の介入主義と冷戦後のパクス・アメリカーナ時代の介入主義の比較研究、パクス・アメリカーナ(リベラル国際秩序)の「終焉」を印象づけたトランプ政権下における米国内外の民主主義と暴力の関係を対象にした研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2022年度は、1979年から現在に至るイスラーム聖戦士の流動を捉え、ジハードがイスラームに内在的な問題ではなく、地球規模でのイデオロギーと暴力の複雑な連関の一角であることを明確にすることを共通の課題とする。2022年7月には、札幌で総括の国際シンポジウム An Anarchist Turn? Imperial Rule and Resistance in the Long Twentieth Centuryを行う。そこでは、次の6つのテーマを扱う。1)ラディカリズムのグローバルな拡散、2)第一次世界大戦と帝国の崩壊、3)脱植民地化と反帝国主義、4)越境するイスラーム主義者、5)冷戦後の「アメリカの平和」、6)長い20世紀の終焉:ウクライナ戦争の波紋。1)で長縄、4)で山根、5)で草野、6)で佐原が報告し、定例の研究会(7月の国際会議時に加え、12月、3月に予定)でも、これらのテーマで議論を続ける。2021年8月にアフガニスタンからの米軍撤退、ターリバーン復権が起こり、2022年2月にはウクライナ戦争が始まり、本研究の実用性が著しく高まっていることに鑑みて、定例の研究会では、現状に関する情報交換も重視する。 2022年度は少しずつ海外出張を再開しつつも、関係図書の構築や現地の研究者に謝金を払いながらの資料調査を精力的に進めたい。秋には各人が南アジア学会、国際政治学会、ロシア史研究会、北米のスラブ・ユーラシア学会(ASEEES)などの年次集会で研究報告を行う。本研究の最終成果として研究代表者は、ロシア/ソ連と周辺世界との相互作用の観点からロシア革命を20世紀史に位置付ける英文論集の編集を進めており、最終年度中には海外での出版に目途をつけたい。
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