研究課題/領域番号 |
18H00697
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長縄 宣博 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 教授 (30451389)
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研究分担者 |
佐原 哲也 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (70254125)
山根 聡 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (80283836)
草野 大希 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90455999)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 20世紀 / 暴力 / 民主主義 / 帝国 / イスラーム / ナショナリズム / 社会主義 / アナーキズム |
研究実績の概要 |
今年度は、2021年1月のアメリカ議会議事堂襲撃事件、8月の米軍のアフガニスタン撤退とターリバーン復権、2022年2月のウクライナ戦争の開始という激動を背景に、本研究の実用性が著しく高まり、歴史研究を軸にしながら現状についても意見交換し、時事解説を発信した。これら一連の事件は、ポスト冷戦の世界秩序の終焉とよく説明されるが、本研究は、1870年代に始まる欧米中心の帝国主義的なグローバル化が今終わろうとしているという見立てを「長い20世紀」と概念化してきた立場から、パクス・アメリカーナの終焉を一世紀半の地殻変動に位置付けることを試みた。草野は、アメリカの困難に正面から取り組むべく、トランプ外交の「米国第一」が、いかに「リベラル国際秩序」(多角主義、民主主義、自由貿易を基盤 とする秩序)に挑戦するものであったのかを一世紀ほどのタイムスパンで考察する論考を発表した。山根は、ターリバーン政権の復活を受けて、それを折しも20周年を迎えた9.11の再考も織り交ぜながら、数百人が集まるウェビナーで解説した。佐原と長縄は、東京外国語大学の「イスラーム信頼学」プロジェクトと連携して、ウクライナ戦争に関するオンライン・シンポジウムを3月に開催した。開戦当時は米欧中心の観点の解説が圧倒的だったが、シリアからウクライナへの連鎖やグローバル・サウスの重要性を指摘した点で異彩を放った。 歴史研究としては、帝国秩序への抵抗(1870年代から1920年代初頭)と反帝国主義の時代の国民形成(戦間期から冷戦期へ)に重点を置いた。長縄はプリンストン高等研究所に滞在する機会を得て、ロシア・イラン関係を軸に1)と2)を架橋する研究を進めた。また、ロシア史研究会の年次集会で、東欧、中国、中東からソ連解体三〇年を考えるものと、ロシア帝国の遺産という観点から戦間期のソ連と中東の相関を考える二つの共通論題を組織した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
依然として海外調査には大きな制約があるとはいえ、オンライン会議を利用して研究成果を広く発信し、世界各地の研究会に参加できるようになったのは肯定的な成果である。折しも今年度は世界を揺るがす事件が続いたので、歴史研究と現状分析を相乗効果的に行うことができたのは大きな収穫である。 本研究は、1)帝国秩序への抵抗(1870年代から1920年代初頭)、2)反帝国主義の時代の国民形成(戦間期から冷戦期へ)、3)拡散する戦闘的イスラーム主義者(1979年以降)という三つの軸を設定しているが、現在は各人が軸を架橋する形で「長い20世紀」の連続と断絶を考察できるように努めている。長縄は1)と2)を架橋する形で、初期ソ連の中東外交が旧ロシア帝国のムスリム地域(とりわけ中央アジア)の内戦で育まれた活動家や言説に下支えされていた側面について研究を続けている。山根は2)と3)の軸を架橋する形で、マウドゥーディーの著作の翻訳と伝播について資料収集と分析を進めている。佐原は2)と3)の軸を架橋する形で、ジハード主義者と右翼のネットワークを比較する研究に取り組み始めた。草野は1)と3)を架橋する形で、アメリカが「海洋帝国」(西半球帝国)となった時代(19世紀末~20世紀初頭)の介入主義と冷戦後のパクス・アメリカーナ時代の人道的介入主義の比較研究を進め、米国のリベラルな帝国の衰退過程を明らかにしようとしている。これらの成果は次年度に計画している、本研究の国際シンポジウムで報告できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2022年度は、1979年から現在に至るイスラーム聖戦士の流動を捉え、ジハードがイスラームに内在的な問題ではなく、地球規模でのイデオロギーと暴力の複雑な連関の一角であることを明確にすることを共通の課題とする。本研究の総括として、2022年7月に札幌で総括の国際シンポジウムAn Anarchist Turn? Imperial Rule and Resistance in the Long Twentieth Centuryを行う。 2022年度は少しずつ海外出張を再開しつつも、関係図書の構築や現地の研究者に謝金を払いながらの資料調査を精力的に進めたい。秋には各人が南アジア学会、国際政治学会、ロシア史研究会、北米のスラブ・ユーラシア学会(ASEEES)などの年次集会で研究報告を行う。本研究の最終成果として研究代表者は、ロシア/ソ連と周辺世界との相互作用の観点からロシア革命を20世紀史に位置付ける英文論集の編集を進めており、最終年度中には海外での出版に目途をつけたい。
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