研究課題/領域番号 |
18H00727
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 貴彦 北海道大学, 文学研究院, 教授 (70291226)
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研究分担者 |
市橋 秀夫 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (70282415)
梅垣 千尋 青山学院女子短期大学, 現代教養学科, 教授 (40413059)
小関 隆 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (10240748)
浜井 祐三子 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (90313171)
尹 慧瑛 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (70376838)
岩下 誠 青山学院大学, 教育人間科学部, 准教授 (10598105)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サッチャリズム / 戦後イギリス史 / 民衆的個人主義 / 1970年代 |
研究実績の概要 |
初年度は、研究会を2回ほど開催、そして各自が海外での資料調査を実施した。夏の研究会の議論を経て、岩下誠氏に研究分担者に加わってもらうことにした。 1、 夏の研究会(北海道大学)では、Camillia Schofield et al, “Telling Stories about Post-war Britain: Popular Individualism and the‘Crisis’ of the 1970s”, Twentieth Century British History, vol.28, no.2, 2017、を共通文献として取り上げた。さらに、長谷川貴彦『イギリス現代史』(岩波新書、2017年)、浜井祐三子訳のパニコス・パナイー著『近現代イギリス移民の歴史』(人文書院、2016年)、小関隆著『アイルランド革命1913-23』(岩波書店、2018年)の合評会をおこなった。春の研究会(青山学院大学)では、岩下誠「1970年代のイギリス教育史をめぐって」、梅垣千尋「1970年代イギリス女性運動の研究動向」のふたつの報告をおこなった。 2、長期休暇を利用して英国での資料調査を実施した。長谷川貴彦はロンドン「トインビーホール」での反貧困運動参加者の聞き取りを、市橋秀夫は若者文化や同性愛などサブカルチャー全般の聞き取りをおこなった。小関隆は1960年代から設立された「ニュー・ユニヴァーシティ」のウォーリック大学で発生した問題について調査した。浜井祐三子は1970年代イギリス極右勢力による移民排斥の動きに対抗した市民運動について、中央政府・地方自治体の公的資料、メディア資料、当時の運動に参加した人々/その周辺にいた人々の口述資料等の調査を、尹慧瑛は北アイルランドにおける旧英植民地出身者を中心とするエスニック・マイノリティの経験についての調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、戦後イギリス史の分水嶺を形成するサッチャリズムの歴史的前提となる1970年代の状況を「下からの」アプローチによって明らかにしようとするものである。サッチャリズムの研究は、主として政治学や経済学のアプローチから蓄積されてきたが、同時代の資料公開が進むなか本格的な歴史研究が試みられるようになっている。そこでは、社会や文化の変容と絡めてサッチャリズムの分析する傾向が強く、本研究においては「民衆的個人主義」をキー概念に検討をおこなっている。それは、戦後福祉国家のなかで自己決定権を高めてきた民衆レベルでの個人主義であり、この意識がサッチャリズムによって大衆資本主義へと転轍されていったという問題意識に基づく。具体的には、サブカルチャー、移民、女性、エスニシティ、貧困、大学問題などの領域をとりあげて、オーラルヒストリーやエゴ・ドキュメントなどの民衆的アーカイヴを活用することにより明らかにしていくものである。 夏の研究会では、「民衆的個人主義」をめぐる論文Camillia Schofield et al, “Telling Stories about Post-war Britain: Popular Individualism and the‘Crisis’ of the 1970s”, Twentieth Century British History, vol.28, no.2, 2017、を読み、共通の理解を深めることができた。また春の研究会では、教育と女性/フェミニズムをめぐって、具体的論点から認識を深めることができた。本年度は、全体としてみれば、海外から研究者を招聘することができなかったが、1970年代の研究史的な意義を確認できたことは有意義であったように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、基礎的文献の把握と海外調査に基づく個別研究の報告を目的とした研究会を2回ほど開催、また海外からの研究者(1名)を招聘して講演会などを開催、そして海外での資料調査を実施する。夏の研究会は、8月札幌の北海道大学で、春の研究会は、3月東京の青山学院大学にておこなう予定である。 1、夏の研究会では、基礎的文献として、1970年代の再評価について、Lawrence Black, Hugh Pemberton and Pat Thane eds., Reassessing 1970s Britain, Manchester University Press, 2013 などを取り上げる。また個別報告として、市橋が1970年代の「若者と犯罪」に関する報告、長谷川が1970年代の福祉と貧困に関わる非営利団体の活動についての報告、小関が1960年代との関連で1970年代を論じる報告をおこなう予定である。 2、海外の中堅研究者(たとえば、Ben Jackson, Oxford University )を日本に招聘する。 3、長期休暇を利用して英国での資料調査を実施する。長谷川貴彦はロンドン反貧困運動参加者の聞き取りを、市橋秀夫は若者文化や同性愛などサブカルチャー全般の聞き取りをおこなう。梅垣千尋は英国図書館が2013年から公開を開始したSisterhood and Afterというオーラルヒストリーのプロジェクトを活用し、このアーカイヴに収められた参加者たちの語りを分析する。小関隆は1960年代から設立された「ニュー・ユニヴァーシティ」のウォーリック大学で発生した問題について調査する。浜井祐三子は極右勢力による移民排斥の動きに対抗した市民運動について、尹慧瑛は北アイルランドにおける旧英植民地出身者を中心とするエスニック・マイノリティの経験についての調査をおこなう。
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