研究課題/領域番号 |
18H00836
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
塚原 英敦 成城大学, 経済学部, 教授 (10282550)
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研究分担者 |
川崎 能典 統計数理研究所, モデリング研究系, 教授 (70249910)
清水 泰隆 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70423085)
小池 祐太 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (80745290)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 計量ファイナンス / リスク管理 / バックテスト / 高頻度データ / 保険数理 / 接合関数 |
研究実績の概要 |
塚原は,まずリスク尺度のバックテストについて昨年度に得られた知見を発展させて,逐次予測分析のフレームワークを基礎としつつ,より一般に予測評価の一般理論として定式化した論文を現在まとめている最中であるが,それは2019年8月シンガポール国立大学での招待講演,同年11月大阪大学での招待講演,そして2020年3月Ecole polytechniqueでのミニ講義で高く評価された. 接合関数に関するリサンプリング法の開発について,Anna Kiriliouk,Johan Segersとの共同研究は,渋谷政昭教授記念論文集に投稿・受理されている.さらに,雑誌『統計数理』招待論文として,「接合関数モデルにおける統計的推測」というタイトルで展望論文を執筆した.その論文は,セミパラメトリックモデルとして順位に基づく方法の妥当性や実際の推測方法について解説したものである.また,東北大の松田教授の助言を得て,接合関数を空間計量経済学のモデルに応用するという着想から,各国の証券・為替市場の空間パネル分析を行う研究計画が現在進行中である. 9月にルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンで開かれる CEQURA Conferenceで,清水はコホートごとの死亡率予測について,川崎はGARCHモデルと極値理論を融合したリスク計測アプローチについて発表した.その研究集会では,研究協力者のMittnik教授らと次年度日本で開催予定の国際会議の打ち合わせを行った.さらに,12月にイギリスのロンドン大学で開催されたCMStatistics 2019で塚原が企画セッションをオーガナイズし,Mittnik教授,McNeil教授,研究協力者のPaolella教授の大学院生P. Walkerに講演してもらい,バックテストや裾リスク,システミックリスクなど,定量的リスク管理分野における様々な話題について議論した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況を「やや遅れている」とした最大の原因は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による海外渡航規制である.本研究課題の研究計画策定時には,最終年度に中規模の国際研究集会を開催することを目指しており,2019年度にはある程度招聘すべき研究者を絞って来日の打診をしてきたが,2020年度にそれが実現できるかは現時点では不透明である.オンラインでの研究集会も可能ではあるが,新たな共同研究者の模索や交流推進のためには実会場・対面式の研究集会開催・参加は欠かせないと考えている.これについては,今後のCOVID-19感染状況を引き続き注視して判断していく. 金融商品の多様化・複雑化・高度化,金融市場のグローバル化,そして取引手法の高度化に伴って,ファイナンスにおけるリスクも多様化している.その一方で,個々のリスク,あるいは複数のリスク間の関連性を的確に表現するモデルを構築し,それらを計量化するための統計的手法の改良・開発が本研究の主要な目的である.しかし,近年の市場のディジタル化や暗号資産の普及といった流れに追いついておらず,その対応に遅れが生じているため,その分野の理解と統計手法の展開が急務である. 保険数理における統合的リスク管理についても,全体としての研究の具体的方向性を決めて進めていく必要がある.アルゴリズム取引から発生するリスクを高頻度データを用いて解析し,連続時間のリスクをモニターしようという試みも現時点では未熟なアイディアの段階である.その他,多変量極値理論や機械学習の手法という新たな道具・数理技法の基本的な事柄の習得は進んだが,本研究課題の様々なテーマにどう生かしていくは今後の課題である.川崎との共同作業である,定量的リスク管理の統計的方法に関する教科書の執筆も予定通りには進んでいないのが気掛かりである.
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今後の研究の推進方策 |
経済変量予測の事後評価についての決定理論的な視点からのアプローチも取り入れることによって,バックテストの一般理論構築は引き続き重要な研究課題となる.また,塚原が長年研究してきた歪みリスク尺度に対する汎用的なバックテスト法,そして資本賦課の計算について,MATLAB,RやPythonでのコードの開発・改良を行うとともに,国内外の共同研究者や分担者らの協力を得て,本格的な実装および実データへの適用を行っていきたい. さらには,動学的リスク尺度(dynamic risk measure)の統計分析および連続時間でのリスク・モニタリング過程と呼べるようなものの提案を行っていきたい.多変量極値理論や機械学習の手法という新たな道具・数理技法の応用も視野に入れている. 接合関数については,時系列モデルをうまく組み合わせた多変量時系列モデルを構築し,その理論的な性質の解明と実証分析を行い,さらに,複雑に絡み合って顕在化するリスク間の相互依存性を考慮に入れたモデリングを,接合関数を用いて行うことに取り組む予定である.具体的には,接合関数モデルのシステミックリスク計測のためのリスク尺度CoVaR への応用,信用リスクの1つである取引先(カウンターパーティ)リスクと,それに関連する誤方向リスクの分析,エクスポージャとデフォルト確率の間の相互依存性,市場リスクにおけるリスク因子間の依存関係のモデリングなどである.これらについて,単純に正規接合関数を用いてモデル化する既存の方法に変えて,ヴァイン接合関数や歪みt接合関数のなどの適用を試みたい.接合関数モデルにおける統計的モデル選択法の開発とRでの実装も現在進行中の研究課題である. 日本での研究集会の開催や海外研究集会への参加等については,オンライン参加も検討するが,今後の情勢を見極めつつ対応していきたい.
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