多数の非血縁者から成る社会で相互協力を達成可能なのは人間のみである。しかし、人間のいかなる本質がそれに寄与しているのかは、人文学から生物学までの幅広い領域において多数の研究がなされてきたにもかかわらず、未だ明らかではない。本研究は、現在有力な理論仮説の一つである強い互恵性に焦点を当て、3つの角度からその妥当性を検討する。強い互恵性仮説によれば、協力行動と罰行動、偏狭さ、そして外集団攻撃行動の間には連動が存在し、その連動は適応的であり、それにより相互協力が維持されていることになる。そこで本研究では、①連動が適応的であるという主張の理論的再検討、②連動が実証データにより支持されるかどうかの検討、③支持されるとしたらそれが進化時間において形成されたものか、比較的最近形成されたものかの検討、の3つの方向から、この仮説の妥当性を厳密に検討し、妥当性が低い場合には代替仮説として評判仮説を提唱する。 2018年度の実験結果から、本人の利他性と外集団に対する行動との間にはほとんど関連が見られなかった。そこで、2019年度は、状況特性と外集団に対する行動との間の関係をより厳密に検討した。具体的には、共感を高めることにより内集団と外集団に対する利他行動に差が生じるかどうかを検討したところ、共感を高めても外集団に対する利他行動は低下しなかった。また、集団間で代理報復を行う行為者の評判は、集団間に葛藤がある場合の方がない場合よりも悪いということも明らかになった。これらの結果は、更に外集団攻撃行動の妥当性に疑問を投げかけるものであり、偏狭であることが非適応的であることを示唆する。
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