活動銀河核ジェットの高解像度電波観測のターゲットは、近傍で巨大なブラックホールを有するM87銀河である。M87ジェットの中心から遠方に(10-100倍の重力半径程度)離れた領域の電波画像は、外縁部が明るく、また軸付近も別成分として明るい。我々はそれを利用して電子の空間分布とブラックホール回転速度を制限するという独自の研究を行ってきた。3年目に築いた1次元一般相対論的プラズマ粒子シミュレーションによる研究をさらに進め、ブラックホール近傍の上空で電磁流体条件が破れ、ガンマ線フレアが起こる条件を明らかにした。ただ、この過程で作られる電子の数は電波画像を説明するには到底足りないこともわかった。一方で、近年の研究から、定常MHD加速モデルでは外縁部での加速が観測に比べて速すぎ、外縁部での非定常過程が重要であることが示唆されている。我々は、3年目に提唱した降着流での磁気リコネクションガンマ線放射モデルを応用し、ブラックホール近傍の赤道面で起こる間欠的な巨大な磁気リコネクションが大量の電子陽電子対を生み出すという新理論を構築することに成功した。この電子陽電子の数は電波画像を説明するのに十分足りる。本研究の目的であるジェット中の電子の起源の解明について、ついに物理的に自然な理論的枠組みを得たといえる。また、これまでジェットエネルギー流生成理論の大部分がブラックホール重力場を固定していたが、相対論研究者と共同研究を行い、重力場と電磁場がともに変化する状況を記述する定式化を行った。それにより、エネルギー流によって重力場がカー時空の形は変化させずにブラックホールの質量と角運動量のみ変化していくということを発見した。
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