研究課題/領域番号 |
18H01539
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
佐藤 愼司 高知工科大学, システム工学群, 教授 (90170753)
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研究分担者 |
田島 芳満 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20420242)
山中 悠資 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60815108)
下園 武範 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70452042)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 漂砂 / 平衡断面 / 海岸侵食 / 沿岸漂砂 |
研究実績の概要 |
深刻な海岸侵食が進行している宮崎海岸において、トレンチ調査を実施した。さまざまな海浜特性の海岸を対象とするために、一ツ瀬川より北側の海岸で3地点の調査箇所を選定した。一ツ瀬川河口には導流堤が建設されており、その北側には沿岸漂砂が捕捉され、南側の海岸が侵食される要因となっている。トレンチ調査を実施する前に、20年以上の期間にわたって取得された海浜断面の深浅測量データを分析し、調査地点を含む海浜の特性を把握した。深浅測量から得られた海浜断面形状を平衡断面の式に当てはめ、その際の係数と残差を利用して小丸川・一ツ瀬川にかけての海浜断面の形状と沿岸砂州の発達の時空間的な変化を定量的に表した。また1982年以降の長期的なデータにこの手法を応用することで一ツ瀬川以南における長期的な海岸侵食の進行を分析するとともに、沿岸砂州がおよそ14年の周期で変動していることを明らかにした。これにより、海浜過程と侵食対策は、短期的な土砂の変動のみから検討するのではなく、数十年程度の長い期間を想定した上で検討する必要性があることが示された。 3地点で実施したトレンチ調査では、それぞれの地点で堆積層序面を観察するとともに底質を採取した。採取したサンプルを鉛直方向に2.5cmの間隔で小分けし、粒径分析および砂鉄の含有量の分析を行った。その結果、波高が大きい台風が来襲した年に当たる層では粒径が大きくなり、砂鉄の含有率が高くなる傾向があることを見出し、粒径と比重による分級過程を実証的に明らかにした。トレンチから採取したサンプルに対してルミネッセンス分析と炭素14による年代分析を行い、土砂の堆積年代を明らかにした。これらから、海岸侵食が最も激しい地点が、近年は北から南に移動していることを確認するとともに、河川から流出する土砂特性や海象特性の変化と海浜変形との関連について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の研究では、当初の研究計画に基づき、深刻な海岸侵食が進行している宮崎海岸でトレンチ調査を実施した。調査結果を分析したところ、当初の予想に反し、底質粒径と磁性体割合が沿岸方向に単調でないことが明らかとなった。研究遂行上、この現象の本質を見極めることが不可欠であることから、研究計画の一部を2019年度に繰り越し、台風等による岸沖漂砂の役割を解明する分析を追加で実施した。追加分析では、1982年以後の古い時期における海岸地形データも分析したところ、宮崎海岸の侵食は、北から南へ単調に進行しているのではなく、14年程度の周期で侵食と堆積を繰り返しつつ、さらに長期的には侵食傾向にあることが判明した。さらに、14年程度の中間的な時間スケールの変動においては、突発的に来襲する大型台風のインパクトが本質的であり、これにより、沿岸砂州の形成など海岸変形の変動モードが転換されることも確かめられた。さらに、これまでにトレンチ調査を実施してきた静岡県の諸海岸のデータも含めて再解析したところ、同様の海浜過程と大型台風の役割は、多くの海岸で共通して見られることが確認された。研究の初年度に、当初計画通りのトレンチ調査とその分析が実施できたうえに、追加分析により重層的な時間スケールの普遍的な存在を確かめることができたことは、次年度以後の研究の効率化に資すると考えられる。したがって、現在までの研究の進捗状況は、おおむね順調に進展していると判断するのが妥当である。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度にトレンチ調査を実施した宮崎海岸の調査データからは、海浜変形が時間的にも空間的にも単調に進行するのではなく、14年程度の周期で侵食と堆積を繰り返しながら進行していくことが明らかとなった。さらに、14年程度という中間的な時間スケールを決める要因としては、突発的に来襲する大型台風の影響が本質的であることが確認された。2019年には、宮崎海岸より海象条件が厳しく、海浜の底質粒径が粗い高知海岸でトレンチ調査を実施する予定である。前年度の研究成果に基づき、トレンチ調査の候補地点の検討では、より長期的な測量データを分析対象として候補地点を決定することにする。また、養浜による土砂供給の影響についても議論が深められることを念頭において、土砂供給の多い河口付近と、土砂供給がほとんどない地点の比較も議論できるよう、研究を推進してゆく予定である。
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