研究課題/領域番号 |
18H01624
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
横田 久美子 神戸大学, 工学研究科, 助手 (20252794)
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研究分担者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (10216806)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地球高層大気 / 原子状酸素 / 分子散乱 / 大気抵抗 |
研究実績の概要 |
本研究は申請者が科研費の支援により世界で初めて開発した超低軌道宇宙環境模擬技術(非熱平衡系多成分高速原子分子ビーム形成技術)により得られた知見をベースに、ワンノズル・ツービーム方式により大フラックス化して、実際の超低軌道上環境曝露試験の結果と比較するものである。そのため、「つばめ(SLATS)」による軌道上曝露試験の実施タイミング(2018年度開始)と合わせて研究を実施することに大きな意味がある。SLATSは2017年12月に打ち上げられ、2019年10月1日に成功裏に前ミッションを終了した。材料劣化に関わるAOFSならびにMDMミッションはいずれもエクストラサクセスを達成し、本研究のリファレンスデータとなり得る世界初の超低軌道における材料劣化現象の観測に成功した。SLATS運用中におけるリアルタイムのデータ解析としては、高時間分解能観測が可能なAOFSデータ解析を優先したため、MDM画像解析は非優先とされた。そのため、MDM画像データの引渡しが2020年3月にずれ込み、画像データの解析は2020年度に持ち越された。 一方、レーザーデトネーション型原子状酸素ビーム発生装置の改造による原子状酸素と窒素分子の超高強度同時照射技術を開発については、2018年度にワンノズル・ツービームを実現するための、パルスバルブおよびノズルシステムの改造を行った。この中で、パルスバルブを高速動作させるためのピエゾアンプがモデルチェンジするため、2018年度に導入予定であったピエゾアンプを2019年夏まで導入延期することで、より高速動作が可能になると期待されたためピエゾアンプの導入時期を変更した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究で最も重要なポイントは超低軌道に対応した原子ビームの高強度化である。しかしながら、イオンとは異なり電気的に中性な原子ビームの正確なフラックス測定は困難であり、宇宙環境試験の定量性を低下させる大きな原因となっている。原子状酸素に対してはポリイミドのエロージョン量から評価する手法がASTMで推奨されているが、その精度については疑問が呈されている。そこで混合原子ビーム各成分のエネルギーを測定する際に使用する飛行時間スペクトル(TOF)面積強度等からビーム中の各成分強度を解析する手法について検討を行い、超低軌道環境試験の定量的精度の向上を行いつつある。原子状酸素ビームの形成にはパルスバルブの高速動作がきわめて重要である。パルスバルブの動作速度はアンプの瞬間最大供給可能電流に律速されており、2019年度に市販される予定の新型アンプの仕様ではこれが引き上げられる予定であることから、ピエゾアンプ導入を延期した。2019年度3月時点では未導入であったが、2019年度に導入され、稼動を確認している。 一方、SLATS搭載ミッションに関しては、一時期の衛星の不具合を解決し、AOFSデータの引渡しが2019年度内に断続的に行われた。2019年3月時点では超低高度域でのデータ取得が行われていなかったため、予備的なデータ解析にとどまっていたが、2019年度下期では世界初となる超低高度における材料劣化データを解析中である。またMDM画像データの引渡しは2020年3月にずれ込んだため、2020度に画像データ解析を本格的に実施する予定である。現在、新型コロナウイルスの影響により、大学院生等によるデータ解析計画に若干の遅延が生じているが、感染が終息すれば2020年度内での遅延回復が可能な状態である。
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今後の研究の推進方策 |
FY2018年度におけるピエゾアンプ購入延期とSLATSデータの引渡し遅延により、FY2018年度の成果は当初予定よりも遅延したものとなったが、FY2019年度以降には順調に推移するものと考えている。特に、SLATS運用がFY2019年度で終了する予定であることから、FY2018年度当初は、FY2019-2020年度にはSLATS/MDMミッションならびにAOFSミッション解析に注力する予定であった。SLATSミッションは世界初の超低軌道材料劣化試験であり、解析により得られた結果は世界初の知見となることから本学術分野への貢献が非常に大きいが、FY2020以降はSLATS運用チームが解散する可能性が高く、JAXA側のサポート体制が不十分になる可能性があるためである。FY2019年度末の状況ではSLATSプロジェクトは解散したが共同研究体制は延長することになり上記の懸念は杞憂となった。FY2019年中に、JAXA以外との共同研究体制も構築し、理学的な見地からもSLATSデータの解析を鋭意進めている。 一方、これに平行してFY2019年度に新型パルスアンプを用いて構築したワンノズル・ツービームシステム等を用いて、SLATS/MDM搭載サンプルに対する地上対照試験を実施する予定である。超低軌道領域での材料劣化地上試験方法について、フライトデータと科学的理論に裏づけされたプロトコルを確立することは、今後の超低高度宇宙機開発に向けて極めて重要であることから、本研究ではJAXA担当者とも綿密に協力しつつ、衛星設計標準に結果をフィードバックすることで、将来の長寿命超低高度衛星システムを実現するための方策を確立する。 (ただし、上記の研究計画のうちON-SITEで行う必要のある地上実験計画については、国内外での新型コロナウイルの感染拡大状態に大きく依存するため、感染状況に応じて臨機応変に研究計画の見直しつつ対処する。)
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