研究課題/領域番号 |
18H01873
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
川原村 敏幸 高知工科大学, システム工学群, 教授 (00512021)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミストCVD / ミスト流 / 装置試作 / 超高品質化 / 反応制御 / デバイス試作 / α-Ga2O3 / 反応メカニズム解明 |
研究実績の概要 |
世界的な安心・安全な生活環境の確立と、超高速・超大容量化する情報化社会への対応等を、地球環境保護を確保して達成させる事を目的に、① 本質的に環境負荷の小さな大気圧下溶液系機能膜形成手法「ミストCVD」を用いて、② 超ワイドバンドギャップ金属酸化物薄膜の高品質化手段・性質制御手段を追求し、③ 超ワイドバンドギャップ金属酸化物量子デバイスの開発、を目標とした研究開発を行っている。具体的にはミストCVDによるα-Al2(1-x)Ga2xO3系深紫外発光素子と高移動度トランジスタ(HEMT)の作製であり、それらの高性能化のため、機能膜を高品質化(結晶・配向性向上、膜内欠陥・転移の特定・低減)する術および性質(組成や伝導・導電性)を高度に制御する術を追求している。 昨年度は、Ga2O3系薄膜の特性を向上させるため、組成制御や支援剤について調査し最適化し(②③)た上で量子井戸(④)やデバイス(⑥)を形成し評価を行った。本件に関連する論文を数報出版し、数本に関しては現在も執筆中である。またミストCVDにおける成膜メカニズムに関する研究を進めてきたが、8年の歳月をかけ昨年度1月についに理論が完成し、解析解と実験値との一致を見いだすことに成功した。本件は本技術開発において最も重要な項目の1つで有り、例えば原料の供給量から成膜量を実験せずとも予想することができたり、上手く活用すればどのような結晶が形成するかなどを予測することも可能となる。本件に関して現在論文を記載中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
① 申請時厳密に計画し予算を算出した上で本申請に備えたにもかかわらず交付金を申請額より減額されたので、予算確保の目処が立っておらず、本件に関して壊滅的な遅れが生じている。さしあたって一昨年度、高温に対応できる設計を諦めた仕様で装置を導入した。 ②ミスト(気液混相)流が持つ高自由度に着目し組成を制御する技術開発を進め、α-Ga2O3系混晶膜作製においてもある程度精密に組成比を操作する術を見いだした。 ③ 偶然α-Ga2O3薄膜の作製時に支援剤を加えることにより表面荒さが低減する事を発見した。詳しく調査をしたところ支援剤だけでなく出発原料と支援剤どちらも重要で有り、供給量や供給量比に最適な条件があることが判明した。 ④ ある程度成膜条件の最適化を行った上で井戸厚および障壁厚の異なる量子井戸および組成比の異なる量子井戸を数種類形成し、東北大多元研秩父教授・小島准教授の協力の下、CLにより発光特性の評価を行った。しかしながら設計において想定される準位からの発光が見られなかったり電子-光変換効率の低さが確認され、多くの欠陥が膜内に存在していることが予想される結果を得られた。一方AlGaOxを用いた場合発光強度が強くなることも確認した。これはAl源の供給によって欠陥量が低減したためかAlGaOxの欠陥準位がGa2O3の欠陥準位よりも発光しやすいのか等考えられる。 ⑥ AlとCrをそれぞれ用いて大凡格子整合させたGa2O3系混晶膜を積層したHEMTを形成し特性を評価したところ、2DEGが見られていることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
① ミストCVDシステムの改良:まず一昨年度計画変更を余儀なくされ導入したシステムであるが、プログラムに問題があり、本年度改善したものを導入予定である。上手く予算が組めれば高温に対応できるシステムの導入も検討する。② 多成分材料の厳密な組成制御:現在保有するノウハウでどの程度の精度で組成を制御できるか調査する。またより高精度な組成制御技術の開発や欠陥低減のための手段開発を試みる。③ 高品質化技術の確立:低欠陥・転移の超高品質α-Ga2O3系結晶膜形成を目的に、サファイア基板との格子不整合の緩和を目的とした傾斜バッファ層の導入やELOなどを試みる。また支援剤導入により表面荒さを低減させる指標が明らかになりつつ有り、本年度は混晶や積層した際でも同様の効果が見られるのかなどについて調査する。④ 量子井戸形成と評価:昨年度に引き続き、②③の技術を利用し高品質なα-Ga2O3系結晶膜を用いた量子井戸の形成を試み、光学特性を測定・評価する予定である。⑥ α-Ga2O3系高移動度トランジスタの試作:③の改善策を導入したうえでMESFET等を作製・評価、さらにHEMTの試作・評価を行う予定である。⑦ 伝導・導電性制御技術:現時点でn型のみ導電性制御は可能であるが、厳密なメカニズムの理解に向け③の技術を利用した低欠陥・転移薄膜を作製し評価を行う。またp型の可能性などについても調査を進めたい。加えて、ミストCVDにおける成膜メカニズムに関して、各種材料において解析解と実験値との一致がどの程度見られるかに関して多くの知見の調査を行う。また原理が不明確な部分のメカニズム構築に注視する。
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