本研究では、高強度円偏光テラヘルツ光を用いたディラック電子系のトポロジー制御技術の開発を目的としている。高強度円偏光をディラック電子系に照射することにより、ディラック点においてエネルギーギャップが生成され、ベリー曲率が誘起されることから、光誘起ホール効果の発現など量子物性制御技術への応用が期待されている。この円偏光照射影響は電場強度(E)ではなくベクトルポテンシャル(E/ω)に依存することから、可視光よりも周波数の低いテラヘルツ光を用いた場合、低電場強度で巨大な効果が得られる可能性がある。一方で、共鳴・低周波領域の振舞いは理論的にも十分理解が進んでいないため、実験的に明らかにする必要がある。本研究は2018年から2020年の3年間で実施する。 本年度は電界効果トランジスタ(FET)構造を単層グラフェン試料に採用することで、ゲート電圧によりフェルミ準位を制御した試料に、高強度円偏光テラヘルツ光あるいは赤外光照射によってトポロジーを制御した状態で、励起光を照射して、高次高調波偏光スペクトル及び強度を測定した。円偏光THz光照射によって、グラフェンのトポロジーを制御した状態で、CEP制御した中赤外光を照射し、HHGの観測を行った結果、円偏光励起がない場合は奇数次HHGのみ観測されたのに対して、円偏光励起下では、奇数次に加えて偶数次HHGの観測に成功した。これらの結果から、100nJ/pulse程度のTHz円偏光励起によっても、時間反転対称性(TRS)が破れ、Floquetトポロジカル絶縁体が発現したことを示唆された。これは中赤外光を用いた場合よりも1桁以上小さい強度である。一方で、擬ギャップの大きさや光誘起Berry曲率の検証を行うためには、THz分光スペクトルやHHGのスペクトルデータのSN比が十分ではなく、測定系の感度向上により、SN比の向上を図る必要がある。
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