研究課題/領域番号 |
18H02286
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
矢部 光保 九州大学, 農学研究院, 教授 (20356299)
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研究分担者 |
青木 恵子 九州大学, エネルギー研究教育機構, 准教授 (10546732) [辞退]
稲垣 栄洋 静岡大学, 農学部, 教授 (20426448)
野村 久子 九州大学, 農学研究院, 講師 (60597277)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 経済実験 / RCT / 耕作放棄地 / 自然再生 |
研究実績の概要 |
本科研においては、国内外の耕作放棄地等を対象として自然再生に向けた手法と施策の調査、および科学的視点も踏まえながら、自然再生のための農家や市民の合意形成手法の研究を行う。 国内の調査においては、兵庫県丹波篠山市で実施している「休耕田ビオトープ」については、市独自の施策として通年湛水他を条件に,休耕田ビオトープには10,000円/10aを補助している。これにより,2013年の実施開始以降,着実に取組み面積が増加していることが明らかとなった。また、熊本県熊本市・南阿蘇市において、耕作放棄地の養蜂利用に向け、養蜂起業家への聞き取り調査を行った。海外調査では、英国における農地の自然再生に関わる実態や課題について現地調査を行った。 自然科学的視点からは、耕作放棄地の植生を調査し、優占する植物種の有害性と有益性の評価を行い、主要なイネ科植物の有害性を調査した。一方、有益な植物種として、蜜源植物の少ない秋季にミツバチ個体群を維持する植物種としてミゾソバやイタドリ等のタデ科植物が有望であることが見出された。さらに、耕作放棄地に見られる植物種の利用法について検討するとともに、耕作放棄地の植生を有害なイネ科雑草が減少し、有益な植物種が優占する植生への誘導する省力的な草刈り方法について検討した。 農家や市民の合意形成に及ぼす手法開発としては、兵庫県東播磨地域で lab in-the-field の形態で経済実験を行った。すなわち、ため池協議会の役員とイベントなどを担う関係者に各協議会10名から20名を招き、公民館や水利組合の農業会館などの協議会メンバーが利用している場所を借りて経済実験を行った。この結果については、12月6日に東播磨で行われた「ため池資源と東播磨の未来を考えるフォーラム~10年先の地域づくりシステムを考える~」(主催:東播磨県民局)でポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度、行えなかった英国での現地調査を実施し、耕作放棄地の自然再手法の調査を行った。また、国内調査も予定通り実施できたので、とりまとめを進めている。しかしながら、今年度末には、コロナウイルスのため、東播磨地域における打ち合わせとRCTの準備ができなかった。そのため、来年度のRCTの実施や国内現地調査が予定通り行えるか、懸念しているところである。また、来年度前半に予定していた海外補足調査も困難な見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
国内調査においては、前年に引き続き、国内の耕作放棄地活用例の調査に向け、既に、国内における事例を3つピックアップしているが、現地調査が行えるのは、コロナウイルス感染のため、来年度夏以降と考えている。これら調査予定地では、耕作放棄地を活用してビジネスあるいは経済活動その他に組み込む工夫がされている。そこで、実施者が他者といかに協働し、どのように展開していったのか、その取組みの経緯を「ガバナンス」という視点から分析する。これにより、持続可能な耕作放棄地の活用方法の指針を探り、提示する。また、国内外調査地において養蜂と自然再生の聞書き調査を行い、これら調査を精査して取りまとめるとともに、英国における農地の自然再生に関連する政策については文献調査を追加し、英国を中心とした海外の自然再生施策を調査を取りまとめる。 自然科学的視点からは、養蜂利用の視点を踏まえ、耕作放棄地の植生の有害性と有益性について、さらに調査し、目標とする植生と、目標植生に誘導する管理法を明らかにする。特にイタドリやミゾソバなど、タデ科植物とカヤツリグサ科等の湿性植物を中心に検討を行う予定である。 合意形成の手法としては、今年度得られたデータを論文として刊行する。また、コロナウイルス感染がある程度収束した場合には、東播磨において、ため池活用のRCTによるフィールド実験を行う予定である。介入を行うため池と行わないため池を比較し、住民のため池の活用の変化を調べる。具体的には、ナッジを施したため池とそうでないため池について、市民の訪問頻度がどのように変化するかを見ることにより、ナッジの有効性を評価し、合意形成に向けて有効な方策を明らかにする。 いずれにせよ、コロナウイルス感染の終息状況を見極めながら、新たな調査を実施するとともに、終息が長引く場合には、今年度まで集めたデータを基にした研究を実施する予定である。
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