熱帯熱マラリア原虫感染赤血球が血管壁に接着する「シークエストレーション」は重症マラリア発症に深く関与する。これは、感染赤血球表面のPfEMP1が血管内皮細胞表面タンパク質と結合することで起きる。熱帯熱マラリア原虫3D7株ゲノムには61個のPfEMP1遺伝子があり、総計271個のタンパク質結合ドメインがコードされている。ゲノム上にある全てのPfEMP1タンパク質を対象とした研究は技術的に困難であったが、最近申請者らはコムギ無細胞系を用いることによって前人未到の3D7株PfEMP1ドメイン271個全てを発現することに成功し、免疫スクリーニングによりマラリア発症阻止に重要なPfEMP1ドメイン17個を同定した。本研究はシークエストレーションの分子機構の解明を目的に、17個の重要PfEMP1ドメインと176個の血管内皮細胞表面タンパク質の結合を網羅的に解析する。重症マラリアに対する有効な治療法の開発につながり、マラリア制圧を加速できる。前年度までに、血管内皮細胞表面に発現するタンパク質176個をコムギ無細胞系を用いて調整し、血管内皮細胞表面タンパク質アレイを構築した。アルファスクリーニングによる網羅的タンパク質結合アッセイを行い、PfEMP1ドメインに結合する新規なヒトタンパク質を同定することに成功した。本年度はコムギ無細胞系によるヒトタンパク質発現の欠点である「グリコシレーション」が起きない点を補うため、哺乳類細胞で発現させた組換えタンパク質に対するタンパク質相互作用を検証することで、スクリーニング結果を検証した。その結果新規なPfEMP1結合ヒトタンパク質を確かに同定する事ができた。
|