研究課題/領域番号 |
18H02688
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
稲澤 譲治 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (30193551)
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研究分担者 |
井上 純 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (50568326)
玄 泰行 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (80596156)
村松 智輝 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (90732553)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 抗癌性核酸医薬 / BETファミリー蛋白 / BRD4 / スーパーエンハンサー / DNA修復経路 |
研究実績の概要 |
抗がん核酸薬の創薬シーズとなる新規のがん抑制型マイクロRNAを同定するため、ヒト大腸がん細胞株のHCT116 p53+/+と HCT116 p53-/-を用いて2,565種のヒトマイクロRNA(miR)miRライブラリーの細胞増殖アッセイによるスクリーニング行った。その結果、p53遺伝子の存在の有無に関わらず両細胞株で顕著な増殖抑制効果を認める138 種のmiRNAを選出した。ひき続きこれら138種について10種類の癌細胞株(大腸癌 SW48,HT29、口腔扁平上皮癌 HOC313,HSC-2、胃がん AGS、肺非小細胞癌 A549、食道扁平上皮癌 KYSE150、膵癌 MIAPaCa2)で二次クリーニングを行った。その結果、強い抗腫瘍効果を持つ7種(miR-1293, miR-876-3p, miR-4438, miR-6751-5p, miR-634, miR-3140-3p, miR-92a-2-5p)の癌抑制型miRを選出した。さらに詳細な機能解析から、miR-1293、miR-876-3p、miR-6751-5pの3種が、現在、癌治療創薬の標的として注目されているブロモドメインタンパク質遺伝子BRD4を直接標的として抑制していることを明らかにした。 最も強い抗腫瘍効果を持つmiR-1293について核酸抗癌薬候補miRとしての可能性を評価した。その結果、miR-1293は、BRD4の抑制に加え、DNA修復経路に関わる複数の遺伝子(APEX1、RPA1、POLD4)を直接標的にして機能抑制することを明らかにした。miR-1293の導入により損傷DNAの修復は顕著に抑制されγH2AXの蓄積が確認された。マウスXenograft腫瘍モデルを用いたmiR-1293の治療実験では、皮下腫瘍周囲へのmiR-1293局所投与により顕著な腫瘍の増殖抑制効果が確認され、miR抗癌核酸薬の候補として期待がかかる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マイクロRNA(miR)を標的にした抗癌核酸医薬が期待されている。我々は、2565種類のヒトmiRNA合成2本鎖DNAライブラリーの中から、7種(miR-1293, miR-876-3p, miR-4438, miR-6751-5p, miR-634, miR-3140-3p, miR-92a-2-5p)の癌抑制型miRを選出した。これらのうち、miR-634とmiR-3140-3p の2種は、我々自身が、miR核酸抗癌薬の候補として既に報告(Mol Cancer Res. 2014, Cancer Res. 2015; Sci Rep. 2018)し、抗癌性核酸創薬シーズとして知財取得へと進めている。一方、詳細な機能解析から選出したmiR-1293、miR-876-3p、miR-6751-5pの3種のうち、miR-1293はBRD4とDNA修復経路の複数遺伝子を直接の標的にして機能抑制することを明らかにした。CDDPなどの殺細胞性抗癌薬や特定ドライバーの癌分子標的薬との併用効果も期待できることから、miR-1293核酸抗癌治療は難治がんに対する新たな治療戦略となる可能性がある。これら成果は米国遺伝子治療学会機関誌(Mol Ther. 2020)で発表するとともに特許申請も完了している。現在、核酸化学者、薬物送達(DDS)学者と連携し、核酸の化学修飾、構造変換、核酸送達方法の最適化を図ることで、新しいmiR核酸抗癌薬の創製が期待できる。以上より、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
核酸医薬は、mRNAやnon-coding RNAなど低分子化合物や抗体など従来の医薬品では狙えない細胞内の標的分子を創薬対象にする点で魅力的である。現在までに、癌抑制型miRの miR-29, miR-16, miR-34の3種類でPhase I 臨床試験が取り組まれた。しかし、核酸医薬の問題点として、①ヌクレアーゼによる易分解性、②offtarget効果、③作用点(癌組織・細胞)への送達などがある。我々が独自のcell-based screeningにより見出した癌抑制性miRの中から、核酸抗癌薬としての詳細な機能解析や有効性・安全性に関わる特性を見出す。また、各種癌細胞株を対象に細胞増殖抑制や細胞死誘導などの抗腫瘍効果を顕著に認める癌細胞株群、効果を認めない細胞株群でのオミクス解析情報の群間比較から、効果予測バイオマーカーの同定を試みる。また、各種BET阻害剤(BETi)の薬剤耐性癌細胞株を樹立し、これらを用いて、候補miR核酸抗癌薬の増殖抑制効果を検証し、BETi耐性克服核酸医薬としての可能性を追究する。また、これら3種のmiRsはBRD4以外の細胞増殖シグナルパスウェイやゲノム安定性に関与する遺伝子群を標的にすることを明らかにしていることから、PARP阻害薬を含む他の抗癌性分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤との併用効果の有無を詳細に検討する。また、核酸化学者、薬物送達(DDS)学者と連携し、核酸の化学修飾、構造変換、ならびに核酸送達方法に関して候補miRsの核酸医薬としての最適化を図り、知財的補強を加えながら新しい癌標的分子BRD4をターゲットにするmiR核酸抗癌薬の創製へと発展させる。
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