研究課題
モノソミー7は、小児から高齢者まで、ほとんど全ての病型の骨髄系腫瘍で高頻度に遭遇する染色体異常であるが、その中核となるのは染色体異常としてモノソミー7のみを有する高齢者の孤発例である。一般にその予後は不良であることが知られているが、治療法の開発には、責任遺伝子の同定とその機能解析が必須である。そこでわれわれは、長年にわたりモノソミー7の責任発がん抑制遺伝子の単離を試みてきた。この努力は、Samd9とSamd9L(以下、Samd9/L)両遺伝子の同定という形で結実し(Nagamachi, Cancer Cell 2013)。すなわち、エンドソーム蛋白質をコードするSamd9/Lのヘテロ欠失マウスの半数以上が老年期にMDSを発症することが示されたのである。しかも注目すべきことに、この数年、MIRAGE症候群など、Samd9/L遺伝子の機能亢進型変異を持つ先天性造血不全が相次ぎ報告された。これらの患者から7q-を伴う幼児MDSが多発し、この際に異例なことに、変異を持った7番染色体が脱落し、正常遺伝子が残存する、revertant mosaicismと呼ばれる状況が出現したした。これはMDS発症の要因が、Samd9/Lの欠損や変異に起因する相対的な増殖力の違いであることを示唆する。Samd9/Lが調節している初期エンドソーム交通異常、特に受容体リサイクル代謝異常が、MDSや先天性造血障害を誘発すると思われるので、モデルマウスを作成し、そのメカニズムを検討する。増殖力の弱いMDS細胞が造血スペースを占拠する「MDSの謎」を解く糸口になると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
われわれはCrsp/CAS9法を用いて、MIRAGE症候群に相当するSamd9L遺伝子の点突然変異を持つ遺伝子改変マウスを作成した。作製したSamd9L変異マウスは、概ねメンデルの法則に従って誕生したが、活発ながらも生直後より体格が小さく、貧血、精巣や卵巣の萎縮、腎臓形成不良など、MIRAGE症候群に見られる多臓器機能不全症状を忠実に反映し、全匹が半年程度で死亡した。貧血は小球性低色素性であったが、血清鉄濃度の低下はなく、骨髄細胞のギムザ染色やTer119/CD71によるFACS解析では、前赤芽球~好塩基性赤芽球段階での分化障害が認められた。そこで、分化障害の原因を探るため、サイトカイン受容体やトランスフェリン受容体の代謝を検討したところ、受容体の取り込みが正常の半分以下に減少していることを見出した。一方、これまでにわれわれは、Samd9/Lが初期エンドソームの融合を担う蛋白質であるEEA1と結合することを示してきた。分子生物学的な観点からのSamd9/L機能のアプローチをさらに推進するために、免疫沈降で共沈してきた蛋白質を質量解析器で同定したところ、いくつかの興味深い蛋白質がSamd9/Lと結合することを見出した。
昨年度までの研究により、エンドソーム蛋白質Samd9/Lは受容体の代謝を制御していることが判明し、EEA1など、そのパートナーとなる蛋白質の候補の同定が進んだ。そこで今後は、早期の論文作成を念頭に、①マウス個体レベルでの検討の最終段階を行う。述べてきたように、われわれはヒト7q-/MDSに相当する病態をほぼ必発するSamd9L欠損マウスと、MIRAGE症候群のモデルマウスであるSamd9Lの機能亢進型点変異マウスを作成したが、正常同胞を加えた3種類のマウスの受容体の取り込みや骨髄細胞の分析を、骨髄移植(競合的骨髄再構築能テスト)やcobble stone formation assayなどの手法を適宜用いておこない、MDS発症に至る個体・細胞レベルのメカニズムを解明する。これに加えて、②Samd9/Lの分子レベルの機能を解析するために、Samd9/Lの変異体が受容体代謝に与える影響の分析を進める。モデルマウスの腎病変は、免疫組織化学染色や免疫蛍光染色など形態学的な解析を行うのに至適であり、また比較的容易に採取できる尿細管上皮初代培養細胞により、サイトカイン添加後の受容体の動的な解析も一定程度可能である。Samd9/Lとの結合パートナー蛋白質は、EEA1を始め、興味深い蛋白質が多数同定されてきているので、これらの蛋白質を発現させ、分子メカニズムを解明する。
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