研究課題
膵癌研究において、膵癌自然発生遺伝子改変マウス(KPCマウス)は強力な研究ツールで、膵癌患者の疑似的モデルとして特に有用である。本研究の目的は、前癌病変PanINの段階的進展に伴って重積する遺伝子変異、および癌化から転移や播種に至る各段階での課程を、次世代シークエンサー(NGS)を用いて詳細に解析し、それぞれのkey mediatorを発見し、制御する方法を開発することである。これまでに、ヒト膵癌組織を用いたターゲットシークエンスの結果から、変異遺伝子の差異により異時性多発病変と再発病変を区別できる可能性があることが示唆された。まず肝転移のあるKPCマウスのエクソームシークエンスの解析を行い、膵原発にみられる遺伝子変異が発癌初期の末梢血中にも検出され、週齢が進むにつれmutationは蓄積した。また、癌の進展に伴い検出されたmutationの中には肝転移巣に特異的に見られるものがあった。KPCマウスの末梢血および腫瘍サンプルのゲノムDNAに対するエクソームシークエンスについても、転移の有無や進行度による遺伝子レベルの差異に関して解析する。また、同時にヒト膵癌の局所浸潤や転移に関与する細胞集団や微小環境因子の研究も行い、局所浸潤については、膵に誘導された骨髄由来細胞が浸潤を先導すること、浸潤部の膵癌細胞のnecroptosisによって放出されるCXCL5が浸潤を促進することが明らかとなり、さらにリンパ節転移に関しS100Pの発現が膵癌細胞のリンパ節への進展を制御することを見出した。今後、これまでに明らかにした浸潤、転移に関与する因子を中心に、NGS解析あるいはシングルセル解析を進め、膵癌の進展に重要な役割を果たす遺伝子変異の同定および膵癌におけるゲノム不均一性(heterogeneity)の解明を目指す。最終的には、それらを標的とした新たな膵癌の診断・治療戦略の開発につなげる。
3: やや遅れている
各進行度における膵癌自然発癌モデルマウスおよびヒト膵癌組織のサンプル集積は順調に進んだが、シークエンス結果のデータ解析にやや時間を要している。
今後は担当人員を増やすなどしてシークエンス結果のデータ解析を前進させ、膵癌の浸潤、転移に関する研究で得られた多くの知見と組み合わせて、本研究の目的である膵癌のheterogeneityの解明およびその診断・治療への応用を目指す。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件)
PLOS ONE
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