研究課題/領域番号 |
18H02964
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
網塚 憲生 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (30242431)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 石灰化 / リン酸供与膜輸送体 / 副甲状腺ホルモン / 骨芽細胞 / 微細構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、副甲状腺ホルモン(PTH)シグナルが前骨芽細胞(骨芽細胞前駆細胞)の細胞増殖および成熟骨芽細胞の基質合成を亢進するだけでなく、石灰化基質の構成要素であるリン酸イオンの生成・供与に関する膜輸送体・酵素群に直接作用する可能性を明らかにすることである。 平成30年度では、PTH投与においてリン酸イオン供与膜輸送体・酵素の発現・局在が、基質合成を行っている成熟骨芽細胞、また、それ以外の前骨芽細胞・骨細胞においてどのように変化するか解析した。具体的には、申請者が2016年にEndocrinologyに報告した方法に準じてPTH高頻度投与マウスを作成し、成熟骨芽細胞が活発に基質小胞・石灰化球を産生しながら基質合成を行うこと、また、骨形成速度が亢進することを確認した。ところが、PTH高頻度投与では主要なリン酸イオン供与膜輸送体・酵素である組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNAP),ピロリン酸合成酵素(ENPP1),基質小胞内でリン酸を生成するPHOSPHO1の発現が上昇したが、ピロリン酸を輸送するANKの発現に変化は認められなかった。これら膜輸送体や酵素を免疫組織化学的に解析したところ、コントロール群(PTH非投与群)ではTNAPとPHOSPHO1は成熟骨芽細胞と前骨芽細胞に、一方、ピロリン酸合成を行うENPP1は主に骨芽細胞に教材した。しかし、PTH高頻度投与では、骨芽細胞ばかりでなく前骨芽細胞や骨細胞にもENPP1の強陽性反応を認めた。real time PCRで解析すると、PTH投与群におけるTNAP発現の約2倍のENPP1発現上昇が確認された。 以上から、PTHシグナルによる骨基質石灰化の低下は、単に骨基質合成が上昇しているからだけではなく、石灰化抑制に作用するENPP1発現が亢進することに一因していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来、副甲状腺ホルモン(PTH)を頻回投与すると骨代謝回転が上昇するため、石灰化が骨基質産生に追いつかず低石灰化が誘導されるという説明がなされてきた。しかし、申請者は、PTHが前骨芽細胞や成熟骨芽細胞に局在あるいは分泌されるリン酸イオンの生成・供与に関する膜輸送体・酵素の発現や微細局在に対してPTHが影響を与える可能性を推察し、本研究を実施した。 その結果、PTH高頻度投与では、前骨芽細胞・成熟骨芽細胞ともにTNAP/PHOSPOHO1の強陽性免疫反応を示す一方で、前骨芽細胞・成熟骨芽細胞そして骨細胞にかけて広範にENPP1の強陽性局在が認められた。さらに、PTH高頻度投与によるTNAP発現上昇よりもENPP1発現上昇が有意に高いことも明らかとなった。このことは、PTH頻回投与で骨代謝回転が上昇するため、石灰化が骨基質産生に追いつかず低石灰化が誘導される、といったこれまでの説明だけではないことを強く示唆していると考えられる(平成30年度における本所見は、各学会にて発表を行っており、現在、論文作成中である)。その一方で、PTH高頻度投与によってFGF23の遺伝子発現上昇を確認したが、有意な血中リン濃度の低下は認められなかった。このことは、骨基質石灰化は血中リン・カルシウム濃度の微細な変化に影響を受けるのではなく、PTHが成熟骨芽細胞や骨細胞ネットワークを介して作用する可能性が強く示唆された。よって、今後の研究の推進方策として、追加実験として、PTH投与を低下させた場合にリン酸イオン供与膜輸送体や酵素群がどのような発現変化、あるいは、局在変化を示すか新たな課題が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の実験で、PTH高頻度投与によるTNAP発現上昇よりもENPP1発現上昇が有意に高いこと、また、FGF23発現は上昇したが血中リン濃度に影響を及ぼすほどではなかったことから、骨基質石灰化は血中リン・カルシウム濃度の微細な変化によって影響を受けるのではなく、成熟骨芽細胞や骨細胞ネットワークにより細胞学的に調節される可能性が示唆された。このことは同時に、PTHが前骨芽細胞や成熟骨芽細胞・骨細胞に直接作用する可能性、および、PTHが骨細胞にFGF23発現を誘導し、そのFGF23が骨芽細胞系細胞に局所的に作用することで基質石灰化が抑制される可能性が新たな課題として示された。従って、本研究の申請時に考えていたsodium/phosphate cotransporter type IIa/IIc (NaPi IIa/IIc)遺伝子欠損マウスによるリン濃度低下の実験だけでなく、PTH投与を低下させた場合にリン酸イオン供与膜輸送体や酵素群がどのような発現変化、あるいは、局在変化を示すか追加実験を行いたい。平成31年度(令和元年)では、NaPi IIa/IIc遺伝子欠損マウスの骨組織におけるENPP1, TNAP, PHOSPHO1の発現 ・局在を検索するとともに、PTH投与低下実験、つまり、腎臓5/6摘出ラットにカルシミメティクスを投与する実験を行い、血中カルシウム濃度、リン濃度およびPTH濃度を計測する一方、骨組織の組織化学解析、基質石灰化およびENPP1, TNAP, PHOSPHO1(局所的リン酸イオン産生因子)ならびにFGF23(血中リン濃度抑制因子)の遺伝子発現、蛋白局在を検索する予定である。
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