研究課題/領域番号 |
18H03599
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
今村 真央 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (60748135)
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研究分担者 |
小島 敬裕 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (10586382)
池田 一人 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (40708202)
デスーザ ローハン 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (60767903)
高田 峰夫 広島修道大学, 人文学部, 教授 (80258277)
藤田 幸一 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (80272441)
倉部 慶太 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教 (80767682)
木村 真希子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (90468835)
大塚 行誠 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (90612937)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゾミア / 文字 / 正書法 / 少数民族 / ミャンマー |
研究実績の概要 |
2019-2020年度の進展で特筆すべきは、ゾミア(東南アジア山地、東南アジア対陸部国境地域)の少数民族に関する比較研究のプロジェクトが新たに立ち上がったこと。より具体的には、正書法形成が焦点とする比較研究のグループが本研究事業の代表・分担者を中心につくられた。このグループにはおよそ10の少数民族言語を対象として、国内外から多くの研究者が参加することになる。 なぜ正書法が重要な比較の焦点となるのか。その理由は、正書法及び文字が山地民にとって両義的な役割を担っている点にある。一方で、スコットが『ゾミア』で指摘した通り、山地民は文字や書(ひいては法治主義や官僚制)から逃避を続けてきた存在である。国家建設の根源的制度であり、国家から逃げ回り、口承文化を発展させてきた山地民にとって正書法は脅威である。 しかしもう一方で、文字を積極的に使用している山地の少数民族が現在多くいることも事実である。本研究事業の主な対象である、ミャンマー・バングラデシュ・インド国境地域では、多くの民族が武装闘争を展開しているが、そのような政治的運動は往々にして識字運動といった民族文化活動と連動している。政治的自治を求める集団にとって、正書法は民族集団としての独自性を示す上で不可欠といってもよいかもしれない。 このような正書法の両義牲と、東南アジア・南アジアの山地民は過去2世紀のあいだ対峙してきた。しかし実際のところ、正書法との付き合い方は言語集団によって千差万別なようだ。教科書や辞書や定期刊行物が盛んに出版される言語もあれば、複数の正書法案が乱立して一つに定まらないケースも多く報告されている。正書法に興味を示さないという状況も珍しくない。比較分析に向けて、これまでの歴史的経緯を時系列に整理したい。そしてまずは活版印刷からスマートフォンまでの2世紀に及ぶ技術革新の影響を検証したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
5年の事業として始まった本プロジェクトだが、2年目(2019-20年度)の終わりコロナ禍が始まり、3年目(2020-21年度)は対応に追われることとなった。もともと国外での現地調査を主なデータ入手方法としてデザインされた研究プロジェクトだが、2020-2021年度は国外渡航が全面的に不可能となってしまったことで、東南アジア・南アジアでのフィールドワークはおろか欧米でのアーカイブ調査や国際学会も延期を余儀なくされてしまった。 本プロジェクトは、Asian Borderland Research Network主催の国際学会にて大型パネルを組んでいたが、学会そのものが開催不可能となった。また、インド・中国・ミャンマー国境地帯の歴史研究の第一人者であるBerenice Guyot-Rechard(ロンドン大学キングスカレッジ)の来日もすでに具体的に計画されていたが、これも中止となった。 フィールドワークが全面的にキャンセルされたことで、入手済みのデータを整理したり、遠隔(オンライン)での研究方法や発表方法を試すなど、渡航に依存しない研究の進め方を各自が模索した一年であった。現地語でのデータベースを構築するなど、遠隔による情報収集に新たな可能性が見出せた分野もあったことが収穫である。しかし、対策は個々の研究者によって異なるため、チーム全体としての調整は容易ではない。また、コロナ化の収束が見えない状況でどの程度の計画変更が妥当かを判断することは難しく、手探りの状況が1年のあいだ続いた。 そのなかで、先行研究を改めて見直す作業は有意義に進めることができた。東南アジア史の通史本『世界史のなかの東南アジア』という翻訳書の刊行に至った。本プロジェクトの大きなテーマである宗教、言語、経済の3つ全てが論じられていて、東南アジアと南アジアの関係をマクロ的視野で捉え直すうえで欠かせない研究である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍によって、フィールドワーク、国際会議、対面会合が軒並みキャンセルされたため、推進方策変更が必要になった。対面会合の代わりにオンライン会合を開催することが求められる。移動にかかる時間や旅費を最小限に抑えた上で、世界のさまざまな場所から研究者が同時に参加できることは画期的だ。しかしオンライン会議からの疲弊も明らかだ。オンライン研究会の利点は、おそらく大型会議よりも、小規模のワークショップ形式において発揮されるだろう。各発表者に対してディスカッサントを個別に設けるといったフォーマットを設けることにより討論の質を高めていきたい。 そのようなオンラインでの研究会・ワークショップを、以下の二つのトピックで企画している。一つは、正書法の開発(および反開発)である。少数民族言語の正書法開発を歴史的な現象として捉え、歴史学、言語学、人類学、地理学、宗教学、開発研究が交わるユニークな学際的比較研究を進めたい。具体的な流れとしては、ソウルで予定されていた国際学会における大型パネルを、オンラインでのワークショップとして開催し、出版に繋げる計画が練られている。 正書法や識字運動に絡めて、東南アジア・南アジアにおけるヴァナキュラー(現地語・民族語)の隆盛をゾミアの文脈で再考したい。その上でアンソニー・リード著『世界史のなかの東南アジア』は有益な指南書になる。東南アジア史でも、近世にビルマ語やなどヴァナキュラーの勃興が起こり、その後の国民国家形成の下地となった。しかし、19世紀以降に、(まだ)国家を持たない民族が始めたヴァナキュラー運動はまだ十分に研究されていない。国際オンライン研究会を活用して、この現在進行形の運動を長い歴史的文脈で捉え直したい。
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