研究課題/領域番号 |
18H03864
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吾郷 浩樹 九州大学, グローバルイノベーションセンター, 教授 (10356355)
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研究分担者 |
長汐 晃輔 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20373441)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単層グラフェン / 二層グラフェン / CVD成長 / インターカレーション / 転写プロセス |
研究実績の概要 |
グラフェンは炭素のみからなる原子厚みの二次元物質であり、多くの優れた物性から、光・磁気・バイオセンサー、高周波トランジスタ、フレキシブル透明電極といった幅広い応用が期待されている。本研究では、代表者が開発した「エピタキシャルCVD法」に基づき、新たな学理の構築と応用基盤技術の確立を目的として研究を進めている。 本エピタキシャルCVD法では、サファイア上に製膜した結晶性のCu(111)薄膜をグラフェン合成触媒として利用する。しかし、このCu(111)薄膜には双晶欠陥が存在し、グラフェンの品質低下につながっていた。今回、様々な検討を通じてCu(111)薄膜の双晶を抑制する手法を開発し、グラフェンのさらなる高品質化に目途をつけることができた。同時に、Cu(111)上で配向成長したグラフェンの結晶粒界に関する解析法についても指針を得た。また、多くの共同研究者に本エピタキシャルCVD法で合成したグラフェンを提供し、国内外の二次元物質研究に多大な貢献を行うことができた。 半導体デバイス応用や超伝導の発現などが期待される二層グラフェンについては、バンドギャップを開くために必要とされるAB積層をほぼ100%の割合で合成するとともに、トランジスタの動作実証も行った。三層グラフェンの優先成長についても進展が見られた。 二層グラフェンの層間へのインターカレーションに関する研究も推進し、グラフェンへの二種の異なる分子のインターカレーションなど、世界初の実験にも成功した。加えて、特異的な分子超構造を発見するなど、非常に興味深い結果を得ることができた。 グラフェンの転写に関しても、新たにドライ転写法という有望な結果が得られ、着実に研究が進んでいる。以上のように、単層、二層グラフェンのCVD成長、解析法、転写技術の構築などに関し、今後に向けて大きな進展が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単層グラフェン、および二層グラフェンの研究に関して、これまでの研究で大きな進展があり、当初の目標の多くを達成しつつある。特に、二層グラフェンの均一成長法の確立に加え、AB/回転積層の選択成長を実現できたことは特筆すべき点である。さらに、二層グラフェンへのインターカレーションにおいても、二種類の分子のインターカレーションから特異構造の発現まで、予想以上の成果を得ている(本成果は論文作成中)。以下に、具体的な研究成果について列記する。 単層グラフェンの研究では、サファイア結晶上のCu(111)薄膜の双晶欠陥の抑制に成功した。方位の揃った単層グラフェンのグレイン間の接合に関しても測定法の確立を含め、新しい知見を得つつある。 二層グラフェンでは、AB積層をほぼ100%の割合で合成する、世界的にも例のないユニークな方法を開発することに成功した。このAB積層二層グラフェンの生成メカニズムを明らかにするとともに、high-k絶縁膜や剥離h-BNを用いた積層デバイスを作製し、ACS Nanoに発表することができた。また、複数の大学や研究所に単層、二層グラフェンを提供し、活発な共同研究を継続して展開してきた。 二層グラフェンのもつ特異的な二次元ナノ空間を利用したインターカレーションについても、単一の分子にとどまらず、二種類の分子のコインターカレーションも実現した。また、電子顕微鏡を用いることで、従来の常識を覆す知見も得ており、現在2報の論文を準備中である。 グラフェンのドライ転写についても、簡便かつ不純物の少ない、画期的な転写法の開発を着実に進めることができており、2021年度中には論文発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も単層グラフェンの粒界に関する基礎研究を継続して、超高品質化を推し進めるとともに、CVD合成したh-BNも組み合わせながら、世界トップレベルのグラフェン膜と積層ヘテロ構造の実現を目指して研究を展開していく。 複層グラフェンについても、二層グラフェンのツイスト角度の制御など、より新しい挑戦的な研究を進める。さらに、三層以上の層数やABA積層の選択成長など、グラフェンのテーラーメイド合成にふさわしい新たな研究課題にもチャンレンジする。 同時に、複層グラフェンのインターカレーションをさらに発展させ、従来の黒鉛層間化合物科学の新たな視点からの検討にとどまらず、「二次元ナノ空間科学」という新しい学術分野の開拓へと進めていきたいと考えている。 そして、これまでに培ったドライ転写技術を完成させ、太陽電池、トランジスタ、二次電池等のグラフェン応用の可能性について、共同研究を含めながら引き続き検討し、テーラーメイド合成したグラフェンがこれらの応用に大きなポテンシャルを有することを実証し、社会に貢献していく。
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