研究課題/領域番号 |
18H03972
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 伸一郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (00197146)
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研究分担者 |
伯野 史彦 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30282700)
伊藤 昭博 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 客員主管研究員 (40391859)
福嶋 俊明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (70543552)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 代謝・内分泌制御 / インスリン様成長因子受容体 / インスリン受容体基質 / ユビキチン化 / インスリン様シグナル / インスリン様活性 |
研究実績の概要 |
本年度は、インスリン受容体基質(IRS)の量が変化することによって起こる生命現象について検討を加えた。 最近、細胞集団において、より適応度の高い細胞が近接する他の細胞と競合し、適応度の低い細胞が「敗者」として排除され細胞死し、適応度の高い細胞が「勝者」として生存して増殖する、いわゆる「細胞競合」という現象が観察されることが明らかになってきた。我々は、インスリン様成長因子(insulin-like-growth factor, IGF)のシグナルを仲介するインスリン受容体基質 (IRS)-1を恒常的に発現させたL6筋芽細胞と野生型細胞を混合して培養すると、IRS-1を恒常的に発現したL6細胞はインスリン様成長因子受容体(IGF-IR)の量が多くなり、細胞接着能の減弱を介した細胞競合によって排除され、筋芽細胞同士の細胞融合に必須の役割を果たしていることを見出した。L6細胞では、IRS-Iの量がSCF構成因子のうち基質の認識に関わっているF-boxタンパク質のひとつ、β-TRCPにより調節されているが、IRS-1量の調節が、恒常生維持に重要な役割を果たしていることを示すことができた。 一方、前立腺がん細胞PC3において、脱ユビキチン化酵素USP9XがIRS-2の分解を抑制することでそのタンパク量を高く維持していることがわかったが、IRS-2の高発現は新規の機構で、IGF-IR/Erk経路の活性化および細胞増殖を引き起こすことを初めて明らかとした。前立腺がんを含む複数のがんでIRS-2の高発現が報告されていることから、この一連の分子機構は、これらIRS-2高発現タイプのがんにおいて過増殖を抑制するターゲットとなることが期待できる。 このようにユビキチン化修飾によるIRS量の調節は、生理学的にも病理学的にも重要な役割を果たしていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IRS-1およびIRS-2の量制御により、IGFシグナルの調節だけなく、全く新しい経路で細胞の活性が制御されることを初めて示すことができ、これらの発見は、高く評価できる。今後、これらの制御により、細胞機能の調節を目指す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計画通り、現在、IRSを認識して相互作用するユビキチンリガーゼや脱ユビキチン化酵素の同定、IRSの「量」や「質」の変動が、動物の一生に果たす役割や疾患発症に果たす役割を検討する。
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