研究課題
本研究においては、細胞社会の恒常性維持に関わる細胞競合と接触阻害という2つの現象を統合的に制御する分子機構を解明し、新たな融合研究領域の創出を目指している。これまでの研究で、定量的質量分析法SILACスクリーニングによって、Ras変異細胞に接する正常上皮細胞において、AHNAK2のリピート配列内のセリン残基のリン酸化が亢進していることを明らかになっていた。AHNAK2は、約30アミノ酸残基からなるリピート配列を6つ有するタンパク質であるが、その機能についてはほとんど明らかになっていない。2018年度の研究により、混合培養条件下におけるAHNAK2のリン酸化がRasV12発現の6時間後から12時間後までにピークを迎えることが分かった。また、リン酸化の上流にはカルシウム依存性のPKCが関与していることも明らかになった。さらに、カルシウムセンサーであるGCaMP を用いて、正常細胞あるいは変異細胞単独培養条件と正常細胞と変異細胞の混合培養条件下にて、細胞内カルシウム濃度のダイナミックな変化を調べたところ、混合培養条件下において、細胞内カルシウムのレベルが一時的に増加する(発火様)calcium spikeの頻度が顕著に亢進することが明らかになった。これらのデータは、正常細胞と変異細胞が混在する上皮細胞において、カルシウム濃度が特異的に制御されており、それが、カルシウム依存的なconventional PKCの活性化を通じて、AHNAK2のリン酸化を引き起こしていることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
細胞競合と接触阻害の両者のプロセスに関与するAHNAK2のリン酸化について、細胞内カルシウムの制御が関与していることを示唆するデータを得ることができ、本研究が目指す「細胞社会の恒常性維持に関わる細胞競合と接触阻害という2つの現象を統合的に制御する分子機構の解明」に大きく前進したと評価することができる。
正常細胞と変異細胞の混合培養条件下で特異的にカルシウム濃度が制御されていることが明らかになった。今後は、その上流および下流のシグナル伝達経路を明らかにしていく。さらに、哺乳類培養細胞系を用いて、細胞競合と接触阻害に関与する新たな膜タンパク質の道程のためのスクリーニングに着手する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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