研究課題/領域番号 |
18H04004
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
和田 洋 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60303806)
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研究分担者 |
矢田 哲士 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (10322728)
川島 武士 国立遺伝学研究所, 情報研究系, 助教 (10378531)
市瀬 夏洋 京都大学, 情報学研究科, 助教 (70302750)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウニ / 遺伝子ネットワーク / 進化 |
研究実績の概要 |
当初計画していたATAC-seqによる解析については、自然環境下で発生する個体の遺伝子発現の個体差が、従来考えられてきたよりも大きいことが明らかになったため、このまま進めても計画していたような成果を出すことが難しいであろうと判断された。そのため、むしろ自然環境下の個体間でどの程度の遺伝子発現発現の個体差を定量的に計測するという戦略に切り替えた。 本申請研究で目指しているネットワークの視点から捉えた発生における遺伝子発現制御の性質から、新規形態進化を理解する目的に照らすと、ネットワークの構造が緩衝作用を発揮して、個体間の遺伝子発現のばらつきを許容しつつ、発生を崩壊させることなく進行するという現象を解き明かすことは、非常に意義があることであると考えた。このような緩衝作用から、ネットワークの中に新たな引き込み空間が生まれ、新しい細胞タイプの創成につながる道筋を描くことができる。 その目的に沿って、自然環境課で採集したウニの雄雌3ペアを準備し、それぞれから発生した胚の時系列的な遺伝子発現パターンをRNA-seq解析によって得た。胚を発生ステージ2時間ごとに採集し、RNA-seq解析を行った。その結果、いくつかの転写因子も含めて、発現の個体差が検出された。代表的なものについて、in situ hybridizationで発現を比較し、その結果を確認した。その中には、同じ細胞タイプで、発現の開始時間がずれるものもあれば、全く新規の細胞タイプでの発現を示すものもあった。 さらに、詳細に解析すると同時に、実験的なばらつきの可能性についても検証するために、各ペアから発生した胚から独立に2サンプルで、胚を発生ステージ1時間ごとに採集し、解析した。その結果、実験的なばらつきはほとんどなく、FPKM値に大きな差の見られる者については、確かに個体間での差を検出していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたATAC-seqによる解析については、自然環境下で発生する個体の遺伝子発現の個体差が、従来考えられてきたよりも大きいことが明らかになったため、このまま進めても計画していたような成果を出すことが難しいであろうと判断された。そのため、むしろ自然環境下の個体間でどの程度の遺伝子発現発現の個体差を定量的に計測するという戦略に切り替えた。その中で詳細な時間的遺伝子発現解析をRNA-seq法で行うことで、網羅的に、遺伝子発現の個体差を検出することができ、その結果を定量的にも(遺伝子数など)、定性的にも(in situ hybridizationによる空間解像度も含めた発現のばらつき)を示すことができた。この成果は、ネットワークの視点から捉えた発生における遺伝子発現制御の性質から、新規形態進化を理解する重要な知見となる。ネットワークの構造が緩衝作用を発揮して、個体間の遺伝子発現のばらつきを許容しつつ、発生を崩壊させることなく進行するという現象を解き明かすことで、このような緩衝作用から、ネットワークの中に新たな引き込み空間が生まれ、新しい細胞タイプの創成につながる道筋を描くことができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに明らかにできた遺伝子発現の個体変動を、ネットワークの中での動きとして捉えることで、この現象が、ネットワークの干渉構造を示していることを明らかにしていく。さらには、より緩衝作用を明確に捉えることを目的として、発生開始の初期条件を操作(例えば、半胚にして発生を進行させるなど)することで、遺伝子の発現様式が変化することを検出する。また、Hsp阻害剤下で発生、温度条件を変更した状態での遺伝子発現様式を調べていく。このような操作の中で、新たな遺伝子発現の引き込む空間が異常な細胞として出現することも期待される。そのような細胞での遺伝子発現を調べることで、ネットワークの中の新たな引き込み空間が生まれ、新しい細胞タイプの創成に関する手がかりをつかむことが期待できる。
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