研究課題/領域番号 |
18H04139
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
本山 秀明 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (20210099)
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研究分担者 |
瀬川 高弘 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (90425835)
森 宙史 国立遺伝学研究所, 情報研究系, 助教 (40610837)
米澤 隆弘 東京農業大学, 農学部, 准教授 (90508566)
伊村 智 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (90221788)
竹内 望 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (30353452)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 古代DNA / アイスコア / メタゲノム / 地理的構造 / 微生物群集 |
研究実績の概要 |
低温環境のためDNAが極めて高度に保存されている南極を対象とし,アイスコアや大型動物遺体などの古代試料由来のancient DNAを解析することで,過去の地球環境変動と生物相変遷のダイナミックスとの関連性を解明することを目的としている. 南極古代試料中に含まれるDNA量はきわめて少なく,また著しく断片化していることが知られているため,最新の微量・短鎖DNA分析の先端的手法に関する知見・技量を習得した.断片化された損傷DNAを高収率で精製し,増幅させるために,損傷したDNAを修復させる反応や高収率な新たなDNA抽出手法およびライブラリー構築実験を実地した.得られた結果について,従来の短鎖ライブラリー手法と総合的に比較分析することによって,本手法を用いればより詳細な過去のDNA情報を取得することが可能であることが明らかとなった.構築した手法を南極のアイスコアに用いることで,手法の検証をおこない,実際に塩基配列の取得を進めた. また,南極域の動物の集団動態が最終氷期以降の環境変動にどのような影響を受けてきたのかを解明するために, 南極域の海洋生態系における環境変動の影響を受けやすいと考えられる食物連鎖の頂点を占める大型肉食動物に着目した.国立極地研究所には約2000年前のウェッデルアザラシのミイラ化した標本が保管されており, 本標本からDNA解析を実地した.標本庫では長年の燻蒸処理が施されており,DNAの断片化や損傷がみられたので,DNA抽出方法やゲノムライブラリー作成手法を改良した.2000年前のミイラアザラシ標本の骨, 皮膚および筋組織からDNAを抽出し,ミトコンドリアの配列の取得に成功したので,次世代シークエンサーによるゲノム解読をおこなった.さらに,高精度な生物相変遷のダイナミックスを求めるために,南極で新たに8個体のミイラアザラシ試料の採取をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
南極ドームふじ氷床アイスコア中の断片化された微量・損傷DNAからゲノム情報を取得するために,損傷したDNAを修復させる反応,高収率なDNA抽出方法およびゲノムライブラリーを構築する手法開発を行った.本研究で開発した微量・損傷DNAを高収率で精製し増幅させるDNA抽出手法およびライブラリー構築手法を従来の短鎖ライブラリー手法と総合的に比較分析したところ,本研究で開発した新たな手法を用いれば過去のDNA情報をより詳細に取得することが可能であった. こうして構築した手法をアイスコアに適用することで,塩基配列の取得に着手できたことは重要な成果である. シークエンスした古代メタゲノム配列データを,高速に配列類似性を検索し,古代DNA配列に近縁な系統及び遺伝子機能の推定を行い,当時の生物群集の系統組成と遺伝子機能組成を推定するためのパイプラインの構築を行った. また,今まで情報のなかった南極産大型哺乳類の古代試料から全ゲノム解読に着手した.約2000年前のミイラ化したウェッデルアザラシの標本試料からDNA抽出およびゲノムライブラリーを作成し,次世代シークエンサーで解読できたことは研究目的に沿った成果であるといえる.バイオインフォマティクスの解析も進めており,約2000年前の個体のゲノムワイドのヘテロ接合度の情報が得られつつある.さらに,南極で新たに8個体のミイラアザラシ試料の採取に成功し,ウェッデルアザラシの集団サイズの歴史的な変動を評価するための試料を得ることができた. このように実験手法の開発と併せて生物情報学的解析手法の改善により, 古代メタゲノム配列の解析効率を大幅に向上させたことは本研究プロジェクトの大きな成果であり,これらを実際の南極古代試料に適用することで,これまでほとんど理解が進んでいなかった過去の南極域の生態系と環境変動の関連を解明できる基盤が整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
アイスコアなどの古代試料中の生物量はきわめて少なく,またDNAは断片化していることが知られているため,引き続き最新の微量・短鎖DNA分析の先端的手法に関する知見・技量を習得する.国立極地研究所の古代DNA専用のスーパークリーンルームにて,南極ドームふじアイスコアやミイラ化したアザラシなどの大型動物試料内部のみを無菌的に採取する.申請者らは試料の表面に付着したコンタミネーションの微生物を排除するために,アイスコア融解装置を独自に開発しており,本研究ではこの融解装置を用いる.無菌的に抽出したDNAをもとに,古代試料由来のDNAライブラリー構築に最適化された手法でゲノムライブラリーを作成し,イルミナ社の次世代シークエンサーを用いてゲノム配列の取得を行う. 南極ドームふじアイスコアに関してはシークエンスした古代メタゲノム配列データを,高速に配列類似性を検索し,古代DNA配列に近縁な系統及び遺伝子機能の推定を行い,当時の生物群集の系統組成と遺伝子機能組成を推定する.さらに,研究分担者が開発した,約60万サンプルの様々な環境由来のメタゲノムデータと環境情報を統合したデータベース MicrobeDB.jpとそれら大量のメタゲノムデータを探索可能なWebアプリケーションLEAを用いて,類似した特徴を持つ現生の微生物群集を特定し,その環境情報を基に当時の環境を推定し,過去の気候イベントや氷期-間氷期サイクルにともなう生物相の変遷を解明する. さらにウェッデルアザラシの高精度な集団サイズの歴史的な変動解析を実地するために,南極で新たに採取した8個体のミイラアザラシ試料からゲノム解析を進め,ゲノム全体のヘテロ接合度スペクトラム解析から過去の集団サイズの変動や地域間での遺伝的交流を推定し,氷期-間氷期サイクルと集団構造の変遷の関連性を調べる.
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