研究課題
令和2年度(3年目)は、繰り越し予算にてデータが揃ったDNAメチル化酵素Dnmt3aのPWWPドメイン(ヒストンH3K36me3を認識)変異卵子の表現型(小人症を呈し、異所性DNAメチル化を認める)を論文化して投稿した(リバイス中)。また、推定上のリプログラミング因子Stella欠損卵子についても補強データを積み増し(始原生殖細胞の時点ですでに異所性DNAメチル化を認める)、取りまとめに漕ぎ着けている投稿準備中)。Dnmt3aのADDドメイン(非修飾H3K4を認識)に変異のある卵子の着床後致死の原因として、刷り込み遺伝子のメチル化異常・発現異常を見つけた。現在その確認と論文化を急いでいる。維持メチル化因子Uhrf1が如何にして卵子や初期胚の細胞骨格形成に寄与するのか、メカニズム特定のための多階層オミックス解析を実施し、データを取りまとめた(投稿準備中)。また、Uhrf1の個々のドメインへ変異を導入した卵子は、いずれも少しずつ発生能の低下を示した。さらに、未受精卵や一細胞期胚において、ヒストンH3.3が特殊なゲノム分布を示すことを発見して報告したほか(Nat. Struct. Mol. Biol. 2021)、カナダのグループとの共同研究により卵子に蓄積されたDnmt3aが受精後の精子由来ゲノムのメチル化を担うことを報告した(Nat. Commun. 2020)。エピジェネティック伝達の予測については、標的領域配列をランダム長k-mer列に変換した後に埋め込みベクトル列に変換し、これを双方向ゲート付き回帰型ユニット(GRU)・ニューラルネットワークで入力配列のDNAメチル化状態を分類する手法が有用であることを発見し、取りまとめを行っている(投稿準備中)。以上の研究では本経費で雇用した研究員が中心的な役割を果たし、またリース契約している高速シーケンサーを活用した。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染の影響により、マウスを用いる研究に一部遅滞が生じたが、変異マウスの作成、表現型解析、多階層オミックス解析についてほぼ当初計画どおり進めることができた。以上により、中間評価において「A:順調に研究が進展しており、期待通りの成果が見込まれる」との評価を得た。一方、「数理モデリングについてはその成否の予測が困難であり、モデリング後の要素抽出などにはさらなる工夫が必要である」とのコメントも頂戴した。中間評価ののち上述したように、ランダム長k-merの埋め込みベクトル列と双方向ゲート付き回帰型ユニット(GRU)・ニューラルネットワークを用いたDNAメチル化状態分類法の有用性を確認しており、次の推進方策欄に示すように、さらなる工夫を行うことで目標達成をねらう。
当初計画に従って研究を進めるが、まずDnmt3aのPWWPドメイン変異マウスの成果の再投稿と、Stellaの研究成果の原稿作成・投稿を急ぐ。新型コロナ感染については、教員・学生・スタッフの健康に最大限配慮しつつ、可能な限りマウス系統の飼育を維持して研究を進める。エピジェネティック伝達の予測については、配列多型に基づく卵子・精子由来アレルの区別では根本的なデータ不足を解消できないと判断し、卵子由来のゲノムのみを持つ単為生殖胚を作成し、そのメチル化状態を調べることで、学習に供するデータの量を飛躍的に増量する予定である。また、提案手法において機能領域を推定する方法を考案したので、計算機実験を実施する。さらに、再帰型ニューラルネットワークの高精度化を図るため、アテンション機構などを統合するアプローチを試す予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Nature Structural & Molecular Biology
巻: 28 ページ: 38-49
10.1038/s41594-020-00521-1
Nature Communications
巻: 11 ページ: 5417
10.1038/s41467-020-19279-7
https://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/labo/epigenome/
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~maruyama/