研究課題/領域番号 |
18H05214
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐々木 裕之 九州大学, 生体防御医学研究所, 特別主幹教授 (30183825)
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研究分担者 |
丸山 修 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (20282519)
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研究期間 (年度) |
2018-04-23 – 2023-03-31
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キーワード | 卵子 / オミックス / ゲノム編集 / 機械学習 / 発生 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
卵子の抑制型エピゲノム制御因子のネットワークを明らかにする課題において、昨年度リバイス中であったDNAメチル化酵素Dnmt3aのPWWPドメイン(H3K36me2/3を認識)に変異を持つ卵子の表現型(小人症を呈し、異所性DNAメチル化を認める)の論文を発表することができた(PLoS Genet. 2021)。PWWPドメインはDnmt3aのメチル化活性には必須でないが、標的特異性(異所性メチル化の抑制)に大きく貢献していた。一方、従前から知られていたH3K36me3のみならずH3K36me2も卵子のDNAメチル化に必要であることを発見した(投稿準備中)。また、当初計画に従って卵子におけるStella、Dnmt3aのADDドメイン、Uhrf1それぞれの役割と作用機序について新たな発見と補強データの蓄積があり、それぞれ取りまとめに入った(投稿準備中)。 エピジェネティック伝達の予測については、標的領域配列をランダム長k-mer列に変換した後に埋め込みベクトル列に変換し、双方向ゲート付き回帰型ユニット・ニューラルネットワークでDNAメチル化状態を分類する手法を確立した(投稿準備中)。また、当初は予定していなかった展開として、ゲノムのDNAメチル化分布を他の修飾から予測する畳み込みニューラルネットワークモデルを構築したほか(BMC Bioinform. 2021)、ゴールデンハムスターの卵子のDNAメチル化分布を世界で初めて報告した(Nat. Cell Biol. 2021)。以上の研究では本経費による研究員と高速シーケンサーが中心的な役割を果たした。 最後にコロナ感染症の状況に鑑みて国際シンポジウムを延期し、最終的に令和4年11月に新学術領域研究「全能性プログラム」及び「配偶子インテグリティ」と共同開催した。合計22カ国から405名の参加があり、国際交流に大いに貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染の影響により研究の一部に遅滞が生じていたが、変異マウスの作成、表現型解析、多階層オミックス解析についてほぼ当初計画どおり進捗した。特筆すべきは、清華大学のチームに先を越されたため一旦中断することを決めた(令和元年度実績報告書参照)H3K36me3修飾酵素Setd2変異マウスの研究を復活させ、当初計画以上の成果をあげたことである。すなわち、本研究においてH3K36me3のみならずH3K36me2も卵子のDNAメチル化に必要であることを発見したため(上述)、Setd2変異マウスとH3K36me2修飾のドミナントネガティブ変異の二重変異体を用いたH3K36me2/3の二重欠損マウスを作成し、卵子のDNAメチル化がほぼ完全に消失することを示した(投稿準備中)。すなわち、抑制型エピゲノム修飾DNAメチル化の確立にほぼ必要かつ十分といえる分子的ネットワークを明らかにすることに成功した。 一方、エピジェネティック伝達の数理モデリングはやや遅れていたが、上述のように、ランダム長k-merの埋め込みベクトル列と双方向ゲート付き回帰型ユニット・ニューラルネットワークを用いたDNAメチル化状態分類法を確立した(投稿準備中)。すなわち、DNA配列に基づいて卵子から胚へのメチル化伝達を高精度で予測することが可能になった。 最後に、コロナ感染症の状況に鑑みて国際シンポジウムを令和4年度に延期し(経費繰り越し)、令和4年11月に新学術領域研究「全能性プログラム」及び「配偶子インテグリティ」と共同開催し、この分野の国際交流に貢献して当初の目標を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の佐々木は本年度末を以て九州大学名誉教授になるが、令和4年度は特命教授として学内にとどまり、本課題の最終年度の研究を遂行することが可能になった。まず、投稿準備中の卵子のDNAメチル化がほぼ完全に2つのヒストン修飾H3K36me2/3に依存することを示した論文と、エピジェネティック伝達を予測する数理モデルの論文のジャーナル掲載を目指す。また、卵子におけるStella、Dnmt3aのADDドメイン、Uhrf1それぞれの役割と作用機序に関するデータがほぼ出揃ったので論文投稿を目指す。最後に、中間評価において「モデリング後の要素抽出などにはさらなる工夫が必要である」とのコメントを頂戴したので、その対策として、ロジスティック回帰によりDNAメチル化の維持・伝達に対して正又は負に働くモチーフを抽出する。以上を以って当初の目標と計画をできる限り達成する。
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