研究課題/領域番号 |
18H05253
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 幸生 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (00415217)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | X線 / 可視化 / 放射光 / 位相回復 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の4つの項目を中心に実施した。①一次元開口アレイを用いた空間的に非干渉なマルチビーム形成法の開発、②ランダムアレイを用いたタイコグラフィ位相回復法の高度化、③タイコグラフィ-XAFS法によるナノスケール局所構造解析の実証、④タイコグラフィ-XAFS法の実試料観察への応用展開 ①:微小開口スリットを入射X線の空間コヒーレンス長以上の間隔で水平方向に一次元的に配置した光学系を構築した。微小開口スリットは、タンタル金属箔に集束イオンビーム加工を施すことによって作製できた。真空チャンバーを設計・開発し、一次元アレイ開口をチャンバー内に配置することでマルチビーム光学系を完成させた。 ②:複数枚の回折強度パターンがインコヒーレントに足し合わされた回折強度パターンから試料像を再構成する位相回復計算法の開発を行った。試料の直前に円柱構造をランダムに配置したランダムアレイを配置することで、互いに相関の小さいマルチビームを形成され、空間的に多重化された回折強度パターンからの像再生が可能であることが判明した。 ③:タイコグラフィ-XAFS法により広域X線吸収微細構造(EXAFS)を取得することで、ナノ領域における原子の局所構造を決定できることを実証した。試料にはMn酸化物微粒子を用い、MnのK吸収端近傍の複数のX線エネルギーで回折強度パターンを収集した。そして、回折強度パターンに位相回復計算を実行することで、50ナノメートルの空間分解能でEXAFSを取得し、動径分布解析を行えることを実証した。 ④:タイコグラフィ-XAFS法とコンピュータートモグラフィを組み合わせることにより、酸素吸蔵・放出材料粒子の元素価数分布の3次元空間の可視化に成功した。更にデータマイニングと連携した解析により、粒子内の酸化反応の軌跡を可視化することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に予定していた計画を順調に進めることができた。提案したマルチビーム光学系を構築するなど、当初目的を達成した.これに加えて、タイコグラフィ-XAFS法とデータマイニングとの連携による酸化反応の軌跡の可視化など当初予定していない新たな展開があった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、①マルチビーム光学系を用いた高スループットタイコグラフィ計測法の確立、②情報科学的手法を活用したタイコグラフィ位相回復計算法の高度化、③その場観察測定システムの開発を行う。 ①:マルチビーム光学系の高度化を行い、高スループットタイコグラフィ計測法を確立する。具体的には、集光径100nmを有するタイコグラフィ用全反射集光光学系を設計・製作し、マルチビーム光学系に組み込む。SPring-8において開発した光学系を用いてテストパターンのタイコグラフィ測定を行う。情報多重化位相回復計算法を用いて試料像ならびにプローブの再構成を行い、再構成像の質が開口数に依存してどのように変化するかを評価し、スループット向上のための最適な実験条件を決定する。 ②:全変動正則化を導入したタイコグラフィ位相回復計算法を開発する。具体的には、全変動正則化を用いることで、走査点数の少ないタイコグラフィデータからの試料像再構成を実現することで、実効的な測定スループットを向上させる。全変動正則化のために新たにハイパフォーマンス計算機を導入し、従来の位相回復計算に組み込んだ解析ソフトウェアを構築する。最終的に、マルチビーム光学系と組み合わせて、測定スループットを10倍程度まで向上させる。 ③:当初の計画を前倒しして、タイコグラフィ-XAFS法によるその場観察測定システムの開発を行う。具体的には、真空チャンバー、真空排気装置、環境セル、試料観察用長作動距離マイクロスコープを備えたリハーサルシステムを東北大学に構築する。そして、計測プログラムをLabVIEWによって開発し、SPring-8でのその場観察を想定したリハーサルを東北大学で行い、最適な測定条件を決定する。その後、SPring-8での実試料観察へと展開する。
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