研究実績の概要 |
新規RNA修飾酵素の同定とその機能解析では、大きな進展があった。脊椎動物では、mRNAの5'末端のキャップ構造に続く 1 塩基目にN6, 2'-O-ジメチルアデノシン(m6Am)が存在する。このm6Am修飾の生合成や機能はほとんどわかっておらず、その解明のためにはm6Am 修飾のN6-メチル基を導入する酵素の発見が不可欠であった。私たちは、本研究でm6Am修飾のN6-メチル基を導入する酵素を同定し、CAPAM と命名した(Akichika et al., Science, 2019)。CAPAM を欠損した細胞は酸化ストレスに対する感受性が亢進しており、m6Am修飾が生理学的に重要な意義を持つことが示唆された。リボソームプロファイリングの結果から、m6Am修飾はタンパク質合成能を向上する機能を持つことが示された。この成果は、エピトランスクリプトミクスやRNAの研究分野のみならず、生命科学の広い分野から非常に大きな反響があり、国際的にも高く評価されている。 また、枯草菌をはじめとする一群のバクテリアには、酢酸イオンを基質としてN4-アセチルシチジン(ac4C)修飾を導入するユニークなアセチル化酵素TmcALを同定した(Taniguchi et al., Nature Chem Biol., 2018)。 さらに、炭酸ガスに敏感なt6A修飾の生合成とワールブルク効果の関係性を示した研究(Lin et al., Nature Commun., 2018)は、RNA修飾が細胞内メタボライト濃度によってダイナミックに調節されていることを示した成果であり、本プロジェクトのコンセプトを実証した知見である。いずれも、長年培ってきた研究成果が同時期にまとまった形となったが、これらの成果は、エピトランスクリプトミクス、タンパク質合成、RNA生物学などの研究分野の発展に、大きく貢献している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新規RNA修飾酵素の同定とその機能解析では、予想以上の成果が得られた。脊椎動物mRNAのキャップ構造におけるm6A修飾酵素の同定と機能解析 (Science, 2019)は、エピトランスクリプトミクスやRNAの研究分野のみならず、生命科学の広い分野から非常に大きな反響があり、国際的にも高く評価されている。また、First authorの学生はこの研究成果で、第10回日本学術振興会育志賞を受賞した。また、酢酸を基質にするユニークな新規RNAアセチル酵素(Nature Chem Biol., 2018)を報告した。さらに、炭酸ガスに敏感なt6A修飾の生合成とワールブルク効果の関係性を示した研究(Nature Commun., 2018)は、RNA修飾が細胞内メタボライト濃度によってダイナミックに調節されていることを示した成果である。本プロジェクトのコンセプトを実証しており、学術的価値が高い。いずれも、長年培ってきた研究成果が同時期にまとまった形となったが、これらの成果は、エピトランスクリプトミクス、タンパク質合成、RNA生物学などの研究分野の発展に、大きく貢献している。「RNA修飾の生物学的な役割の解明」の功績が認められ、第26回木原記念財団学術賞を受賞した。
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