研究実績の概要 |
本研究では、RNA 修飾の変動と制御という新しい概念を確立し、エピトランスクリプトミクス研究におけるパラダイムシフトを目指す。本年度は、新規RNA修飾として、RNAの可逆的リン酸化修飾を報告した(Nature, 2022)。この成果は、RNA修飾によるエピトランスクリプトミックな遺伝子発現の調節機構の理解や、RNA修飾が担う生命の適応進化の理解に貢献するものである。RNA修飾の機能解析として、ヒト骨格筋の分化過程において、mRNA修飾と特殊翻訳の制御がセレン含有タンパク質の発現を制御する機構を見出した(Nature Commun., 2022)。また、RNA修飾酵素を用いたミトコンドリア脳筋症を治療する概念を提唱し、患者細胞を用いてそれを実証した(Nucleic Acids Res., 2023)。翻訳初期段階において、タンパク質合成の品質を管理する新しい機構を発見した(Nature Commun., 2023)。哺乳動物tRNAのQ修飾に糖(ガラクトースおよびマンノース)を付加する2種類の酵素、QTGALおよびQTMANを同定した(Cell., 2023)。糖付加Q修飾がtRNAの翻訳速度を調節すること、ゼブラフィッシュの正常な発育に必須であることを示した。一般にtRNA修飾は翻訳効率を高めることが知られているが、この研究はtRNA修飾が翻訳速度を制御することを示した初めての発見である。これらの修飾酵素を欠損するとタンパク質のフォールディング異常が生じ、統合的ストレス応答が誘起されることから、tRNA修飾による翻訳速度の適切な調節が健全なプロテオスタシスの維持と脊椎動物の正常な発育に必要であることを提唱した。さらに、CryoEMを用いて、tRNAのシチジン修飾がコドンを解読する様子をによる構造解析に成功し、AUAコドンを解読する分子基盤を解明した(NSMB, 2024)。
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