研究課題
本プロジェクトの目的は産業革命から現在までの高確度エアロゾルデータベースの構築とアイスコアの新規分析手法から人新世の大気環境復元を高度化することである。最初の目的のために、グリーンランド南東ドームでの300mのアイスコア掘削を計画した。しかしながら、通年コロナ禍でレベル3の渡航禁止下での出張が極めて困難であり、次年度に計画を延期し、予算を調整金として次年度に繰り越すことにした。令和2年度は第2の目的に多くのエフォートを費やした。具体的には、すでに本プロジェクトで公開済のエアロゾルデータを参考にしつつ、1)衛星による近過去の雲量との統計的解析(主担当:藤田)、2)氷晶核能測定装置の開発、3)ダストデータの高精度解読、4)電子顕微鏡による硝酸塩組成の復元(主担当:大野)、5)過酸化水素分析法の確立(主担当:服部)、6)硫酸エアロゾル中の酸素同位体比を用いた大気酸化力の復元(主担当:服部)、7)メタンスルホン酸による海氷面積・海洋生物活動の復元(的場)、8)過去の硫酸エアロゾルの粒径復元、9)ラマン分析によるアンモニウム塩・硝酸塩の組成復元などの分析に着手してきた。このうち論文として成果発表した研究の概要は、南東ドームのダストデータの高精度解読から、温暖化により2000年以降に氷床沿岸の秋に季節積雪の減少が早まることで、秋のダストフラックスが増加していることを解明した。また、硫酸エアロゾル中の酸素同位体比を用いた大気酸化力の復元から、1980年以降の二酸化硫黄排出規制にも関わらず、硫酸エアロゾルの減少が鈍化している原因として、大気の酸性度に依存する大気化学過程を変化させ、結果として硫酸生成効率を高めていたことを解明した。近年のダスト濃度の増加や大気酸化力の減少を解明したことは、今後の北極域の環境変動予測に重要な成果である。
2: おおむね順調に進展している
本プロジェクトではグリーンランド南東ドームでの300mのアイスコア掘削を計画している。しかしながら、通年コロナ禍でレベル3の渡航禁止下での出張が極めて困難であり、令和2年度の実施は断念した。他方で、新規解析法確立を目的とした既存の90mのアイスコアの解析は順調に進んでおり、試行錯誤しながらも独創性の高い成果を創出することができた。特に硫酸エアロゾル中の酸素同位体比を用いた大気酸化力の復元に関する成果は2,021年3月に「Science Advances」誌に受理され、令和3年度に公開される。5年計画の3年目にもかかわらず、このような高IF誌に成果を創出できたことは本プロジェクトの研究進捗が順調であることを示すとともに、高度な研究を推進できてきたと自負している。なお、R2年度の研究費の多くはR3年度の掘削のために調整金とした。
原則としては令和2年度と同様にプロジェクトの目的達成に向けて、これまでに得られた成果をもとに、着実に研究を進めていく。本プロジェクトではグリーンランド南東ドームでの300mのアイスコア掘削を計画している。しかしながら、通年コロナ禍でレベル3の渡航禁止下での出張が極めて困難であり、令和3年度の開始時点でも困難さの変わりはない。現時点では令和3年度で掘削を実施する予定であるが、もし今後も極めて困難な状況が継続する場合は掘削を令和4年度に延期するか、本研究の目的を大きく変換し、アイスコアによる新規分析手法から人新世の大気環境復元を高度化することに研究エフォートを集中する可能性がある。国内外のコロナ禍の状況とその各国の対応政策を見極めながら判断していく。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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