研究課題/領域番号 |
18H05294
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
藤田 秀二 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (30250476)
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研究分担者 |
平林 幹啓 国立極地研究所, 研究教育系, 特任助手 (20399356)
飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (40370043)
大野 浩 北見工業大学, 工学部, 准教授 (80634625)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 南極 / アイスコア / 気候変動 / 古気候 / 氷床 |
研究実績の概要 |
・ミリ波誘電率テンソル計測:ドームふじ深層コアについて、深度2,500mまで概ね5m深毎に1mの区間を連続計測した。611m深から871m深については完全な連続計測を実現した。 ・結晶C軸方位計測:約800m深の試料について、約500個の結晶粒についての結晶方位を取得し結晶C軸方位分布の解析を実施した。深層部(約2400m深~3000m深)の取得済みのデータ議論を実施した。 ・連続融解計測装置系(CFA)を用いた化学層位計測:初年度に試作したヘッドを用いて表面処理や氷の融解テストを実施し、さらに、小型融解ヘッド用の氷の保持装置を新たに設計・製作した。また、初年度に開始したCFA計測をさらに深部に延伸し、470.5m深~570.5m深について連続解析を実施した。 ・塩微粒子の層位にかかる研究:顕微ラマン用DPSSレーザーを用いて、ドームふじアイスコア中に含まれる塩微粒子に対して種類・組成の同定作業を実施した。 このほか、アイスコアの信号形成にかかるプロセスにかかる研究として、南極地域観測隊に於いて南極内陸部のドームふじ地域で実施した氷床表面約50cm深度の比表面積の計測・解析を実施した。また、信号形成を解明する目的で、南極ドームふじ南方地域で掘削された142m長の浅層アイスコア、通称NDFNコアの各種解析を実施した。また、ドームふじアイスコアの固体電気伝導度解析として、2本の南極ドームふじ深層コアについて、固体電気伝導度(DEP)値の2コア間の信号強度の比較を実施した。氷床探査用レーダによる観測のデータ処理として、研究代表者の藤田は2018年度に第60次南極地域観測隊に参加し、南極内陸部のドームふじ地域で氷床探査用レーダを用いて約2000m厚~3000m厚をもつ南極氷床の大深部からの電磁波の散乱状態を調査した。氷床の大深部に、物理・化学的な層構造が維持されていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アイスコアの物理層位の計測については、機器開発をこの2年間で着実にすすめた。実際の装置系の運用と計測の進捗としても、前例のないレベルの詳細度と統計的な有意性をもつデータを取得した。アイスコアの結晶C軸方位の直接計測と検討については、必要なデータ取得と既存データの分析を確実に実施している。連続融解計測装置系(CFA)を用いたアイスコアの化学層位計測について、融解ヘッドの新規開発を着実にすすめた。CFA解析を、アイスコアの浅層部や中層部に関してのべ約420m長の解析をすすめた一方、装置故障が頻発し、本研究課題が焦点とする2400-3000m台のCFA解析への着手は遅れており、他の研究とあわせた解析待ち試料の待ち行列を考えたとき、楽観的な予断はできない。 アイスコア中の塩微粒子の層位にかかる顕微ラマン解析は順調に推移しており、論文化を待つ状況となっている。アイスコアの信号形成のプロセスにかかる研究の各項目については、南極氷床から新たに採取したサンプルを用いて多岐にわたる新規解析を実行し、データを蓄積しつつある。また、ドームふじアイスコアの固体電気伝導度解析の評価を着実に実行している。 最先端の氷床探査用レーダで南極氷床内陸部の底面近傍の観測を南極地域観測隊で実施し、氷床の大深部に存在する層構造を確認したほか、氷床流動モデルを用いた年代の検討を実施した。 2名のポスドク研究者を2019年10月から採用した。本研究の推進に最適任の研究者であった一方、採用時期が、研究の実質開始から1年以上経ってからのタイミングとなった。この点で、研究進捗の加速は次年度やそれ以降の重要な課題である。 論文成果としては、本科研費の研究は前駆的な期間からの着実な流れのなかで新知見を積み重ねて構築している。研究全体として、論文出版とデータの出版を加速すべき状況にある。これは次年度やそれ以降の重要な課題である。
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今後の研究の推進方策 |
・アイスコアの物理層位の計測:ドームふじ深層コアについて、結晶方位構造の層位やその発達を読み解くために、ミリ波誘電率テンソルの計測を2400m深からより深い側に延伸する。それとあわせ、結晶C軸方位の直接計測とを実施し、ミリ波誘電率テンソルとの比較を行う。水平方向に切断したアイスコアを用いてのミリ波誘電テンソルを計測し、水平面内での誘電テンソルの主軸2成分の差を明らかにする。さらに、研究成果の論文化をはかる。 ・連続融解計測装置系(CFA)を用いた化学層位計測:これまでに開発した小型の融解ヘッドの運用試験を重ねる。解析待ちサンプルのなかで、優先度を決めて、年間あたり約100m長を到達目標として今後の深部(2,400m深~3000m深)のCFA解析をすすめる。ドームふじアイスコアの中層のアイスコアとしては、約570m深~600m深の試料についての連続解析を実施する。また同様に、ドームふじ近傍で2017/2018年に新たに掘削された152m長の浅層コアについて、約75m深よりも浅い深度区間の計測を完了させる。データの出版、研究結果の論文公表にも着手する。 ・塩微粒子の層位にかかる研究:不純物の存在状態の検知計測を、ラマン分光散乱を用いて継続する。各海洋同位体ステージ中に狙いをつけた離散的観測となる。既にこれまでの研究から、間氷期の氷の層位に含まれる塩微粒子では硫酸ナトリウムが大半を占めるが、氷期には、硫酸カルシウムや硝酸ナトリウムが多く出現することを見出している。継続計測は、この計測結果をさらに検証することになる。 このほか、アイスコアの信号形成にかかるプロセスにかかる研究、ドームふじアイスコアの固体電気伝導度解析、氷床探査用レーダの観測データとアイスコアデータとの比較、アイスコア間の気候変動イベントの年代差の抽出作業を、上記の研究主要部分とあわせて実施する。
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備考 |
南極とグリーンランドという両極地域の氷床や氷河の掘削によってアイスコアを採取し、古環境を復元する研究から過去の地球規模の気候・環境変動を明らかにしてきたことを紹介。その時間スケールは、これまで最も古いものとしては南極ドームふじで掘削したアイスコアを用いて72万年の時間スケールをカバーするほか、将来のアイスコア掘削は100万年を超える年代までの古環境の調査を目指していることを紹介。
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