研究実績の概要 |
閉シンプレクティック多様体上の(スペクトル不変量から構成された)部分シンプレクティック擬状態について, 任意の可積分系がそれについて重なファイバーをもつかは今も未解決の問題である. この問題に対して, 筆者は折田龍馬氏との共同研究において「擬重」な部分集合という概念を提唱し, 任意の可積分系が擬重なファイバーを持つことを証明した. また, 部分シンプレクティック擬状態が単純な場合には, 擬重ならば重ということも証明した. したがって, 単純な場合には上の未解決問題を解決したことになる. ただし, 部分シンプレクティック擬状態の単純性は多くの場合で期待されているものの, 実際に証明されているものは現状わずかである. 我々の結果の別の応用として, 2次元球面の直積上の可積分系である一般双角運動量上のnon-displaceableファイバーについてもいくつかの結果を得た. 余接束上にはMonzner-Vichery-Zapolskyの構成した部分シンプレクティック擬凖同型がある. 折田龍馬氏との共同研究で上について超重な部分集合について研究した. これは筆者の取り組んでいたEntov-Polterovich理論の相対版の応用で, 余接束の場合に筆者の結果がうまく応用できることを発見し, 研究が進展した. 具体的な成果としては, 球面振り子, ラグランジュの独楽, コワレフスカヤの独楽といった有名な可積分系について超重なファイバーを発見した. 昨年度はGとその正規部分群Hについて「H上のG不変な(部分)擬凖同型」という概念が提唱されるという出来事があり, 筆者はそれが擬凖同型の拡張問題と関係することを指摘し, Gが閉曲面のシンプレクティック微分同相群の単位元成分, Hがハミルトン微分同相群の場合にH上のG不変(部分)擬凖同型が必ずしも拡張しないことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は擬重部分集合についての研究と応用、古典的な可積分系の重・擬重部分集合の発見、擬凖同型の拡張問題での例示などの想定以上の仕事ができた一方で, 従来の計画通りに行っていない部分もあり, (2)を選択した. 擬重という概念の提唱と応用, ラグランジュの独楽などの古典的な可積分系での超重部分集合の発見などは, 当該分野においては相応にインパクトがある一方で、従来の研究計画におけるラビノヴィッツ・スペクトル不変量の理論の進展や重部分集合の判定方法についてはあまり進展していない. non-displaceabilityへの応用という元来の研究計画からいえば成果自体は計画以上ではあるが, 従来の研究手法を少し修正することで得られた成果が多く, 研究計画のような地道な新手法開発も重要な研究であろうと考える. 擬凖同型の拡張問題という, 初等的ではあるが先行研究のあまりない問題で成果を出せたことは評価すべきであると考えている. 一方で元々の計画に沿った研究(有界コホモロジー理論の一般化など)はあまり進展しておらず, 研究計画のような基礎理論の整備の仕事も中長期的にこの分野を発展させるには重要であろう.
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今後の研究の推進方策 |
ラビノヴィッツ・スペクトル不変量版のEP理論を完成させられるかどうか検討する. また, 例を増やす方向の研究も引き続き行う. この際に主な候補となるのは昨年度に引き続き余接束上の可積分系であるが, シンプレクティック形式を変形させた余接束など他の空間上の可積分系についても考えてみる. 比較写像を用いる研究については昨年度はほかの研究で忙しくあまり進展しなかったので改めて考えてみる. また, 近年(フレアー理論の)パーシステント・ホモロジーを用いる研究がますます盛んになってきており, これらの成果を本研究にも取り込めないかどうか検討する. 部分擬凖同型について, 昨年度はGとその正規部分群Hについて「H上のG不変な(部分)擬凖同型」という概念が提唱されるという出来事があり, 申請者もその文脈でいくつか成果を得ている. この流れを本研究のテーマともより深く結び付けたいと考えている. ババード双対定理についてであるが, 昨年度は既存の方法では解決が難しく感じており, 有界コホモロジーの理論を一つ一つ拡張するという遠回りであるが王道な方法を用いるべきであるというのが一つの反省で, この方向性で考える. また, 最近の著しい成果としてBrandenburskyとMarcinkowskiがハミルトン微分同相群上で高次の有界コホモロジーの非自明性を証明しており, これと本研究のテーマを結びつける研究も行いたいと考えている. 例えば彼らの構成はフレアー理論を用いないものだったので, フレアー理論(スペクトル不変量)でも何かできないか考えたい. 他の方向としては彼らの結果の「部分擬凖同型」版を考えてみるのも一つである.
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