2019年度中に実施を予定していたものの、COVID-19の世界的な流行の拡大に伴い今年度に延期していたウズベキスタン共和国およびカザフスタン共和国における補完調査は、対面での実施を取りやめ、オンラインでの調査に切り替えて実施した。具体的には、2020年4月から8月にかけて、必要に応じてオンラインでの聞き取り調査(主に事実確認および現状確認)を実施した。また、場所と時間を選ばない調査が可能になったことにより、当初は予定していなかったタジキスタン共和国と、ロシア連邦タタールスタン共和国に居住する調査協力者を対象とした補完調査もオンラインで実施することができた(2020年5月から9月)。 本研究課題の成果の集大成として、博士論文を執筆した。博士論文は、中央アジアの3つの国(ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン)に居住するタタールの言語選択に注目し、とくにタタール語の選択/不選択の実態とその背景要因を社会言語学的ならびに言語政策論的観点から考察するものであった。本研究では言語政策の分析と質的・量的調査を通じて、タタールの言語選択と言語使用の状況およびその背景要因を解明しようとした。結論として、研究対象とした3つの国における言語政策やタタールの言語状況はそれぞれ大きく異なることが明らかになり、従来の概括的な視点だけでなく、個別的な視点からも論じることの重要性を示す事例となった。個別事例の質的・量的分析により、タタール語を選択するうえでは①タタール語の使用機会の有無、②既に習得している言語とタタール語との言語的類似性の有無、③タタール語によって得られるメリットの有無、④タタール意識の有無が、共通する背景要因となっていることが示された。博士論文は2021年1月21日に実施された最終審査の結果合格し、2021年3月25日に筑波大学より博士(社会科学)が授与された。
|