本研究は、責任帰属をめぐる理論的問題に対して、哲学の因果論を適用することで一定の明晰化を果たそうとするものである。その根底には、災害や感染症の際に、根拠の不明な主張が飛び交い、そうした主張のゆえに、災害本体とは別の二次被害が多々発生してしまうという悲劇に対して、その因果的構造を明らかにして、事態を解明したいという狙いがあった。そして、その狙いを果たすべく、認識や信念形成の際に証拠や根拠の確認を怠るという、認識的「過失」という不在を原因として害がもたらされる、という不在因果として問題を整理して、英国の哲学者クリフォードの「信念の倫理」に即しながら、責任帰属と因果性の問題について議論を展開した。
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