研究課題/領域番号 |
18K00059
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
護山 真也 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (60467199)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プラジュニャーカラグプタ / ダルマキールティ / ヨーガ行者の直観 / 全知者 / 独自相 |
研究実績の概要 |
本年度は,基礎資料となるプラジュニャーカラグプタ著『認識論評釈荘厳』のなかから,ヨーガ行者の直観に関する議論(PVA 326.20-331.9)に注目し,当該箇所のテキストの批判的校訂を行い,英語の暫定訳を完成した。この基礎作業の遂行にあたっては,オーストリア科学アカデミーのPatrick McAllister博士との共同研究の成果も反映されている。 上記解読研究を基礎として,「ヨーガ行者の直観と全知をめぐるプラジュニャーカラグプタの議論」の成果を公表した。この論考では,PV III 286をプラジュニャーカラが中間偈として処理したこと,ヨーガ行者の直観に全知者の議論を重ね合わせる議論は彼の独創に帰せられることを明らかにした。そこでの彼の立論のポイントは,検証可能な領域において信頼性が担保された言説からは,その言説の主体が全知者であることが高い蓋然性をもって推論されることを示すことにある。 また,ヨーガ行者の直観が知覚の一種として分類され,その対象は独自相として規定されるにもかかわらず,〈無常性〉などの普遍がこの宗教的直観の対象とされることの矛盾をどのように考えればよいのか,という点についても,台湾での国際ワークショップの研究発表で考察を加えた。そこでのポイントは,ダルマキールティがPVSV 42.8-43.14で展開するアポーハ論における個物の扱いが,ヨーガ行者の直観の対象を理解する上での有益なヒントになるということである。その点を踏まえてPV III 102-109を解読するならば,なぜ無常性などの普遍が「独自相」となるのかに対する答えが導かれるという見通しが得られた。 最後に,上記の研究を応用した,仏教認識論に対する比較思想的アプローチの価値について,比較思想学会のシンポジウムで提題を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,基礎資料の解読は順調に進んでいる。ジュニャーナシュリーミトラ著『ヨーガ行者の確定論』の方も,暫定的な日本語訳を作成中である。 現象学および時間論の観点からの比較思想的アプローチについては,道元の時間論研究を通して,佐金武氏との意見交換が継続できており,本研究のテーマについても助言を頂ける体制は整えてある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,『ヨーガ行者の確定論』の方のテキストの批判的校訂と和訳注研究の完成を目指すが,必要なサンスクリット語写本のコピー等はすでに入手してあるため,翻訳の精度をあげるために関連資料を読み込むことが必要となる。 また,成果の発表については,2019年度に開催される国際ヤマーリ・ワークショップ(ライプチヒ大学,6/29-7/1)および日墺交流シンポジウム(オーストリア科学アカデミー,11月)を予定している。
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